無名地域の世界での戦い方 Vol.3

「ガイコクジン」をもう少し分解しよう!

 

意思を持ってターゲットを設定してみよう。

前回は、ゴールデンルート以外の日本の地域は、世界においてはどこも「無名」ゴールデンルート以外のその他大勢の無名地域は、デスティネーションとしての認知を世界で上げるための地道な活動と時間が必要、ということを書きました。

今回は、どの市場を狙い、どう戦うのか、ということについて触れていきたいと思います。

仕事柄、日本のいろんなところに招かれてツアー造成を行う機会が多い自分ですが、よく聞かれることに、「これなんかは外国人に受けますかね?」という質問です。例えば、このXXという体験は受けそうですか? このYYという食べ物は外国人に喜ばれそうですか?という類の質問です。

せっかくの現地訪問ですので、その地域のポテンシャルを見極め、その可能性を的確にフィードバックしたいと私は思っています。また、相手は自分にインバウンド専門家としてその回答を期待して質問してくださっている訳ですので、そのように専門家然として振舞って期待にお応えしたいという気持ちを持っています。

しかしながら、自分は外国人ではないので、この手の質問にはなかなか答えづらいというのが言いにくい本音です(苦笑)。また、自分が外国人ではないので、外国人としての答えを求められても困るということ以外に、この手の質問に対しては、「どこの国の?」「何歳くらいの?」「どんな嗜好性を持った顧客?」というような、顧客属性の定義がなされていないため、「どのマーケットを切り取って答えるべきか?」という点において答えに窮してしまうというのが実情です。

ですので、例えば、「この水族館に外国人を連れてきたら喜ばれますか?」という質問には、「水族館が好きな人には喜ばれると思います」という回答をしますし、「この忍者体験施設は、外国人に喜ばれると思うんですがどうでしょう?」という質問には、「そういうパフォーマンスが好きな人や古いお屋敷が好きな人には喜ばれると思いますよ」という回答になります。

こんな答えを聞くとなんだかざっくりしすぎでは?と思いますよね? でも、考えて見ればお分かりいただけると思いますが、日本人の中にも水族館が好きな人もいれば、忍者のようなパフォーマンスが好きな人もいるように、海外の人にも「いろんな人がいる」のです。ですから、結局は、「その人次第」としか答えられないという訳なのです。

逆の立場で考えてみるとより明確だと思います。フランス現地のフランス人が、「このワイナリーは外国人に受けると思うか?」「エッフェル塔は外国人に喜ばれると思うか?」という議論を一生懸命していると思うと少々滑稽ですよね。ワイン好きならワイナリーの見学はとても楽しいでしょうし、初めてパリ旅行をする人にとってエッフェル塔は、記念写真として必ず押さえておきたいマストビジットな観光スポットと言えるでしょう。

これが日本のインバウンド観光受け入れ側の思考の実情なのです。つまり、ターゲットとすべく顧客属性を想定できていないのです。

世界の人は多様です。日本人の志向が多様なように、外国人の志向も多様です。まずその前提を持つ意識が必要です。その上で、さらに外国人は、多様な民族性を持っている手前、日本人以上に多様です。日本が1億人の人口であるのに対し、世界人口は70億人。だから、どの属性を切り取って話すかで、インバウンドマーケットの話はまったく変わって来るのです。先述の質問についても、どの属性について答えるのかによって、その答え方はまったく変わってくる。だから答えにくいのです。

ですので、我々が外国人の誘客を考えるにあたっては、どんな顧客をターゲットにするのか?どんな顧客に足を運んで欲しいのか?という意思を明確にした方が、より発展的な議論ができるでしょうし、戦略もより具体的になると思います。

何人(なにじん)についての質問なのか、質問で想定しているターゲットはヨーロッパ人なのか、アジア人なのか。ヨーロッパの中でもイギリス人なのかフランス人なのかドイツ人なのか。また日本への来訪は初めてなのか、そうではないのか。20代のバックパッカーなのか、50歳以上のリッチ層なのか。

このあたりのマーケットのイメージがまだ持てていない。どう分解して考えたらいいのか見当がつかない。どんな顧客を狙っているのか?もまだわからない。また、どんな顧客を連れてきたいのか?という意思もまだ持てていない。これが日本のインバウンド受け入れ側マーケットの実情なのです。要は、まずは誰でもいいから来てくれたらいい(でも、できればマナーがいい人がいい)。顧客がきて施設にお金を落としてくれればいい。ただ、その方策についてはまだ考えが至っていない、というようなことが日本のインバウンド観光におけるメンタリティの実態なのだと思います。

もちろん外国人だけを相手にしている訳ではない。日々の商売を回転させることに必死。インバウンド顧客獲得の構想に思いを巡らせる余裕はない。そもそも海外経験もないので、どのようにターゲットを設定すべきか、その発想の拠り所すらない、ということは十分に理解できます。でも少し意識や見方を変えることで、商機が増えると考えたら、インバウンドの顧客は無視できない存在になるのではないでしょうか?

そこで、こう考えてみたらどうでしょう?

「どの国の外国人を呼びたいのか」という発想ではなく、「どんな嗜好性を持った外国人」を呼びたいのか?という視点に立つ訳です。これが市場を定義するということです。

日本酒好きな人、料理好きな人、田舎好きな人、日本に2回目に来る人、歴史好きな人、日本文化を学びたい人、写真好きな人、アウトドア好きな人…などと、想像していくと、その顧客は、どんな顧客なのかが映像として具体的に見えて来ると思います。さらにそのような志向性を持った顧客は、一つの国に所属している訳ではく、いろんな国にまたがって存在することも想像できるでしょう。合気道や柔道、アニメやマンガのファンは国境に関係なく存在しているのです。国ではなく、志向性を考える、受け入れ側がそう思考するだけで日本のインバウンドツーリズムは飛躍的に発展するでしょう。理由はそうすることで、「戦略」が具体的になるからです。

ちなみに我々がテーラーメイドの旅程プランを作る際は、どこの国からで、何歳くらいの年代の人で、予算はどれくらいで、滞在日数はどれくらいで、日本に来るのは何回目なのか、どんな体験を求めているのか、何が必須で何は妥協できるのか・・・などは、必ずヒアリングするようにしています。

ということで、「外国人」という概念をもう少し深掘りして、「どんな志向を持った人なのか」、そして「どんな属性の人なのか」(年代、国・民族、使える予算など)を考えていくとより具体的に思考が進むでしょう、という話です。

ターゲットをセグメントし、意思を持って狙いたい顧客像を具体的に設定してみましょう。

 

–Vol.4に続く

 

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文・リベルタ株式会社 代表取締役

ふるさとを世界と分かち合う ハートランド・ジャパン

澤野 啓次郎

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【Hiroshima Streetscape of Yutakamachi-Mitarai】【Niigata Wakabayashi-tei House】©経済産業省、【表示4.0 国際】ライセンス https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/