ヴィーガンやベジタリアンのインバウンド観光客にどう対応すべき?現状と対策を解説

近年はヴィーガンまたはベジタリアンという選択をする人が増えてきている。宗教上の理由で肉を食べないという人もいるが、動物愛護または健康目的で動物性たんぱく質の摂取を控えるという人も少なくない。
インバウンド観光客のなかには、こうしたヴィーガン、ベジタリアンも存在する。しかし、日本では彼らが楽しめる飲食店がまだまだ少ない。そのため、食事をとる場所を見つけられず、せっかく日本に来たのに十分に楽しめないというケースが見られる。
そこでこの記事では、日本のヴィーガンに対する現状と対策を解説する。

1.世界のヴィーガン、ベジタリアン人口

日本を含め、世界にはどのくらいのヴィーガンやベジタリアンがいるのだろうか。

 

生涯にわたって菜食主義を貫く人もいるが、健康上の理由からやめるという人もいるため、正確な数字を出すことは難しいが、世界のベジタリアンヴィーガン割合は約5%で、ヴィーガンは1〜3%程度といわれている。

最もベジタリアンが多いのがインドだ。信仰者数が多いヒンドゥー教では殺生が禁じられていることから、人口の約25〜30%がベジタリアンでそのうち9%がヴィーガンといわれる。

 

日本からほど近く、訪日旅行者が多い台湾もベジタリアン人口が多く、約13%を占め、ヴィーガンは2%ほどで、インドに次いで2番目に多い。台湾では、近年は動物愛護や健康への意識が高い人が増えており、それに伴いベジタリアンも増加傾向にある。また、日常的に動物性たんぱく質の摂取を控える習慣がある人が30%も存在する。そのため、日本よりもヴィーガンやベジタリアンといった食文化が根付いていると言えるだろう。

 

なお、欧米でヴィーガンが多いのはカナダで、およそ7.6%のベジタリアンのうちヴィーガンが約4.6%を占めている。

 

日本人のベジタリアン人口は約5%でそのうちのおよそ0.5%がヴィーガンといわれており、ベジタリアン人口は平均値だがヴィーガンが少ないという状況だ。

 

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#ベジタリアンとヴィーガンの違い

ベジタリアンやヴィーガンのインバウンド観光客と接するなら、両者の違いを把握しておこう。

ベジタリアンとヴィーガンは、以下のように食べる食品の範囲が異なる。

【ヴィーガン】

避ける食品:すべての動物性食品

食べる食品:植物性食品

【ベジタリアン】

避ける食品:肉、魚(人によって卵、乳製品なども避ける)

食べる食品:植物性食品、卵、乳製品

ヴィーガンとベジタリアンには肉と魚を食べないという共通点があるが、ヴィーガンはより厳格に動物由来の食品の摂取を避ける。よって、卵やはちみつ、和食でよく使用されている鰹節や煮干しでとった出汁も摂取不可だ。なかには、レザーや毛皮など動物由来の素材を身につけない、コラーゲンやスクワランなどの動物由来成分を含む化粧品を使用しないというヴィーガンもいる。

一方、ベジタリアンは人によって食べる食品が異なる。よって、ベジタリアンは以下のように細分化されている。

  • ラクト・ベジタリアン

避ける食品:肉、魚、卵

食べる食品:植物性食品、乳製品

  • オボ・ベジタリアン

避ける食品:肉、魚、乳製品

食べる食品:植物性食品、卵

  • ラクト・オボ・ベジタリアン

避ける食品:肉、魚

食べる食品:植物性食品、卵、乳製品

厳密にはベジタリアンとはいえないが、肉のみを避け魚介類は食べる人を「ペスカタリアン」、ベジタリアンの食生活をベースとし、ときどき動物性食品を口にする人を「フレキシタリアン(またはプラントベース)」という。

 

2.ヴィーガンやベジタリアン対応店舗が少ない日本

インバウンド観光客が増加すれば、当然ながら飲食店を利用する外国人も増える。

 

しかし次のグラフを見ると、インバウンド観光客の来店が増加しているにもかかわらず、インバウンド対応対策を実施していない店舗が目立つ。

「ベジタリアン・ヴィーガン等への対応」も当てはまり、対応済み店舗はわずか約9%だ。77%の店舗は実施する予定がないと回答している。

 

画像引用:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000575.000001049.html

 

3.ベジタリアンやヴィーガンのインバウンド観光客への対応4つ

顧客がヴィーガン、ベジタリアンである場合、次のように対応してはどうだろうか。大きな手間をかけずにできる対応なので、すぐに始められる。

 

3-1.ヴィーガン対応の飲食店を把握しておく

インバウンド観光客がベジタリアン、またはヴィーガンなら、周辺に彼らが利用できそうな飲食店を把握しておこう。事前にリストアップしておくと喜ばれそうだ。

 

ヴィーガンレストランを検索できるアプリ「Happy Cow」を利用すると便利。サーチボックスに地名や郵便番号などを入れて検索すると、以下の店舗が地図上に表示される。

 

  • ヴィーガン店
  • ベジタリアン店
  • ヴィーガンまたはベジタリアン対応メニューがある店

 

また、個店での対応もそうだが、街ぐるみ、行政区ぐるみでこうした食の多様性を推進していくことは外国人旅行者への誘致にもつながり、かつ、食の多様性に対応した地域というブランディングもできるので、地域活性にもつながるだろう。

画像引用:https://www.happycow.net/

 

3-2.精進料理を提案する

精進料理は僧侶だけの食べ物ではなく、今やグローバルな健康食となっている。

仏教とともに中国から伝わった精進料理なら、ベジタリアンだけでなくヴィーガンも安心して食べられる点でポイントが高い。

仏教では生き物を殺す殺生(せっしょう)を避けるよう教えていることから、精進料理では肉や魚、乳製品を使用しないためだ。さらに、「五葷(ごくん)」と呼ばれるニラやにんにくなどの匂いの強いネギ科の植物も使われない。五葷は怒りの感情の原因だと考えられているからだ。

 

仏教だけでなく、一部のヒンドゥー教やジャイナ教も五葷を避けるため、これらの宗教を信仰しているインバウンド観光客にもおすすめだ。

 

外国人旅行者は日本では「日本らしさ」を求める傾向がある。せっかく日本に来たのだから日本でしかできないことをしたいという訳だ。その文脈からすれば日本の伝統に則った精進料理という仏教文化は一石二鳥と言える。殺生を避ける仏教の思想と、そこから生まれた美食を同時に自分の中に取り入れることができるだろう。

 

植物由来の食材で肉や魚などを模した料理は、現代の代替食品にも通ずる考え方で、よりヘルシーにおいしい肉や魚も食べたいという人にもマッチするだろう。

 

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#カジュアルに楽しめる精進料理

精進料理は寺でしか食べられないと考える人は多いかも知れない。しかし最近は、もっと気軽に精進料理が楽しめる飲食店が登場している。ヴィーガンやベジタリアンのインバウンド観光客に、こういった飲食店を提案してみてはどうだろうか。

【精進カフェ マリアージュ】

小田原市国府津駅から徒歩5分のところにある、昔ながらの家屋を利用したカフェ。レトロ、かつおしゃれな雰囲気で精進料理が食べられる。

公式Instagram:https://www.instagram.com/shojincafe.mariage/

 

3-3.スーパー・コンビニを提案する

近くにヴィーガンやベジタリアン対応店舗も精進料理を提供している場所もない場合は、スーパーやコンビニ利用を提案するという手がある。

せっかく日本に来たのに、スーパーやコンビニ利用を提案するのは心が痛むかもしれない。しかし、日本のスーパー・コンビニがおもしろいと感じている外国人は多く、YouTubeやInstagram、TickTockなどでは日本のスーパーやコンビニを紹介している動画が多く配信されている。

 

ヴィーガンでも食べられる食品を、インバウンド観光客と一緒に探すとより良いだろう。

商品に使われている原料は日本語で記されており、その文字を読めずに困る外国人もいるので、動物由来の原料が入っていないか、代わりに確認できる。

また、以下のような動物由来の原料不使用の食品をおすすめするのも手だ。

 

  • こんぶや梅などのおにぎり、塩むすび
  • チキンや卵が入っていないサラダ
  • フルーツ

 

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#活造りや火場焼きは要注意

タイやヒラメ、イカなど活魚を生きたまま食す活造りや、シラスなどの踊り食い、まだ生きているアワビなどの貝類やエビなどを焼いて提供する火場焼きは、日本人にとってはそうめずらしくはないだろう。しかし、外国人のなかには、こういった生きたまま食べる、または調理することを残酷だと感じる人も存在する。

ヴィーガン・ベジタリアンでなくとも、抵抗を感じる恐れがあるので、提供するなら注意が必要だ。

日本の食文化には活け造りや踊り食いという食べ方があるということを事前に説明し、相手が抵抗を示したら、活造りを提供しない飲食店を教えるなどの手を打っておこう。

活造りなどを好まない理由は、海外では動物愛護の意識が高い人が多いためだ。実際に、欧米では家畜を含め動物が心身ともに健康で幸せに生きるために、生活環境を整備する「アニマルウェルフェア」に配慮した製品を選ぶ人は多い。

【アニマルウェルフェアに配慮した卵・肉の購入履歴】

  • 購入したことがある

日本:5.8%

アメリカ:35.2%

イギリス:60.4%

オーストラリア:65.3%

引用:https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2023/07/seiken_230711_01.pdf

 

3-4.居酒屋を利用する

同じグループ内にヴィーガンまたはベジタリアンとそうでない人がいる場合、食事をする場所探しに困るだろう。そういったときにおすすめなのが居酒屋だ。

居酒屋にはヴィーガンでも食べられるメニューが意外とある。ポテトフライや漬物、梅きゅうり、枝豆、揚げだし豆腐など。

ヴィーガンもノン・ベジタリアンも一緒に楽しめるだろう。

 

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#変化が求められるヴィーガンやベジタリアンへの接し方

ヴィーガンやベジタリアン向けのメニューを提供しているなら、彼らに対する配慮をするとさらに喜ばれる可能性が高い。

配慮といっても、特別扱いをするのではなく、むしろほかの客と同じように接することだ。

なぜなら、あやまって彼らに動物由来の食材が入ったメニューが出されないよう、テーブルの端に座らされてしまい、疎外感を覚えるという人がいるからだ。

飲食店や宿泊施設側からすると、間違えずにヴィーガンメニューを提供できるよう工夫をしているのかもしれない。しかしそれが、かえって特別扱いされていると感じ、居心地の悪さを生み出している。

ヴィーガンやベジタリアン、ノンベジタリアン誰もが平等に扱われることが今後求められるだろう。

 

3-5.ヴィーガンカードを用意する

飲食店でヴィーガン・ベジタリアン対応が可能か否かを問い合わせたいが、外国語が通じずに困るというインバウンド観光客もいるだろう。

そういった人のために、以下を日本語と英語(または観光客の母国語)で記載したカードを渡してみてはどうだろうか。

 

  • ヴィーガン・ベジタリアンであること
  • 食べられない食品
  • 提供可能なメニューがあるか

画像出典:https://minamihirayama.com/Vegan-card

 

こうした取り組みによって、現状の改善につながることが期待されている。

 

4.飲食店が行うべき対応

ベジタリアンやヴィーガンに対応できる店や宿は諸外国に比べ圧倒的に少ない現状で、外国人旅行者は、そういった食事制限に対応している店を血眼になって探している。飲食店がベジタリアン、ヴィーガン向けのメニューを提供すれば他店との圧倒的な差別化を測ることができ、店にとって大きなメリットとなるだろう。

しかし残念ながらこの需要に日本の飲食店や宿はまだ気づいていない。4,000万人に迫る訪日旅行客の仮に10%から30%がベジタリアン、ヴィーガンであると考えると、400万人から1,200万人を顧客対象とできる訳だ。これは新たな商機と捉えるべきである。

 

4-1.ヴィーガンメニューの提供

今まで提供している肉や魚を使用した料理の提供をやめるのではなく、ヴィーガン対応メニューを1,2品だけでも加えるだけで、利用客が増える可能性がある。大豆ミートなどの代替食品などもどんどん進化しているので、利用するのも良いだろう。

 

ここでは、ヴィーガンメニューを取り入れている飲食店を紹介する。

 

【biotable.】

ヴィーガンやベジタリアンのみならず、ハラル、グルテンフリー、そして肉や酒を楽しむ人など、さまざまな食のスタイルに対応可能なメニューが用意されている。

一緒に食事へ行くグループにヴィーガンとベジタリアン、肉・魚を食べたい人が混在していても安心だ。

公式サイト:https://www.biotable.jp/

 

【Down to Plant】

サラダやパニーニが楽しめるお店。メニューに「動物性の食材不使用」「チキン使用」など明記されているので「サラダだから大丈夫だろうと思ってオーダーしたら、チキンが入っていた」といった事態にならずに済む。

公式サイト:https://downtoplant.jp/menu/

 

上記の飲食店以外に、ラーメン店の「一風堂」やカレー店の「CoCo壱番屋」は早くからヴィーガンメニューを提供している。

こうした取り組みが企業、個店から雨後の筍(うごのたけのこ)のように発生し、食の多様性への選択肢が増え、旅行者側と受け入れ側がともに潤うことが期待されている。

 

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#実際にあった失敗例と解決策

近年は、日本でもヴィーガンの概念が浸透しており、理解が深まっている。しかしその一方で、ヴィーガンとは「単に肉が嫌いな人である」としか把握していない人が存在するのも事実だ。

ここでは、実際にあった失敗例と解決策を紹介する。

【失敗例】

あるヴィーガンが飲食店で「ヴィーガンなので、肉が食べられません」と伝えたところ、肉類を使用した料理から、箸で肉を抜いた状態で提供されてしまった。

ヴィーガンは動物由来の素材を一切摂取しないため、魚介からとった出汁やバターなどの油も避ける。

調理の段階から動物性由来の食材を使用しないことが必要なのだ。 

【解決策】

ヴィーガンは単に肉や魚を食べない人を指すのではない。動物由来の食材はすべて口にしないのだ。日本は、鰹など魚介の出汁を使用することが多いが、ヴィーガンはその出汁すら食べられない。ヴィーガンは何が食べられて、何が食べられないのかをよく覚えておこう。

次に紹介するのは、ヴィーガンが食せない食材のうち見落としがちなものだ。

  • 鰹出汁
  • 煮干し
  • 乳製品
  • バター
  • ラード
  • はちみつ
  • ゼラチン
  • 乳由来成分(カゼイン、ホエイなど)
  • 白砂糖(製造過程で動物の骨炭が使用されているケースがあるため)

上記以外に、肉や魚を調理した鍋でヴィーガン向け料理を作らないといった注意も必要だ。

ベジタリアンやヴィーガンは食の嗜好ではなく、本人が大切にしている動物愛護などの主義主張や信仰する宗教の教義に由来することを理解し、尊重しよう。

 

 

 

 

 

 

まとめ

少しの手間でヴィーガン・ベジタリアンも日本の食を楽しめる

日本は、ヴィーガンやベジタリアンの比率が少ないせいか、彼らが安心して食事ができる飲食店が圧倒的に少ない。都市部では、ヴィーガン店が増えつつあるとはいえ、日本全国で見るとまだまだ少ない。
しかし、日本には精進料理というヴィーガンにうってつけの料理文化があるし、スーパーやコンビニには彼らが食べられる食品が思いのほか揃っている。
少し手を貸すだけで、ヴィーガン・ベジタリアンでも食べ物に困らずに過ごすことが可能なのだ。
日本がもう少し食に関する国際的なリテラシーを身につけ、多様な食文化を自然に受け入れられるようになれば、より多くの観光客に喜んでもらえる国になるだろう。

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【Hiroshima Streetscape of Yutakamachi-Mitarai】【Niigata Wakabayashi-tei House】©経済産業省、【表示4.0 国際】ライセンス https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/