【後編】温泉でタトゥーを容認すべきか?日本人が刺青に対して厳しい理由と外国人の意見

タトゥーが入っていると、温泉やフィットネスクラブといった施設が利用できない「日本のタトゥー問題」に踏み込んだ本記事。
前半では、日本人がタトゥーをタブー視する理由をタトゥーの歴史を踏まえて考察するとともに、欧米人のタトゥーに対する捉え方に着目した。
後半では、日本在住の欧米人に日本のタトゥー問題に関する意見を紹介するとともに、これからの日本を担うZ世代のタトゥーに関する考えをまとめた。
彼らのタトゥーの捉え方を見ると、今はタトゥーを容認すべきかどうかを真剣に考えるときなのかもしれない。
目次
1.外国人は日本のタトゥー問題をどう見ているのか
日本人と外国人とではタトゥーの捉え方が異なるため、インバウンド旅行者は日本の温泉施設やプールなどでタトゥーが禁止されていることに対して、違和感を覚えるのではないだろうか。
そこで、日本在住の外国人3人に日本のタトゥー問題について意見を聞いてみた。
1-1.日本でタトゥーが原因で、嫌な思いをしたり困ったりしたことはあるか
Ricoは腕に大きなタトゥーを入れており、Codyは両腕いっぱいに、また脚や腹部にも多くのタトゥーがある。
彼らはタトゥーに対して良い印象を持たない人が多い日本で、タトゥーが入っていることが原因で何らかのネガティブな出来事に遭遇したことはないのだろうか。
■Cody Miles (U.S.A) Illustrator/Designer (コディ・マイルス アメリカ出身 イラストレーター/デザイナー)
I work mainly with western clients, and work from home, so I haven’t experienced issues professionally.
Day to day interactions are usually very polite. My tattoos are not brought up often, and when they are, it’s to compliment them. Although, once a drunk ojiisan told me they would look ugly when I was old, but I hear this in every country. I figure if that’s my biggest concern in old age, I’m doing well.
日本語(筆者訳):私は主に欧米のクライアントと仕事をしており、在宅勤務をしているので、職場で問題を経験したことはありません。
私のタトゥーについて指摘されることはあまりありませんが、話題になるときは褒められることがほとんどです。
ただ、ある酔っ払ったおじいさんに「年を取ったら醜くなるよ」と言われたことがあります。
でも、これはどの国でも言われることでしょう。もし老後の一番の心配がタトゥーに関することであれば、私の人生は順調にいっていると言えるでしょう。
■Rico Suhr(Germany) Freelance Photographer/Tour Guide(リコ・サー ドイツ出身 フリーランスフォトグラファー/ツアーガイド)
Not yet! Of course sometimes people starring at me …but this is probably cause of my height! Never had a problem cause of my tattoos!
日本語:まだありません!
ときどき人々にじっと見られることはありますが…おそらくそれは私の身長のせいでしょう。
タトゥーが原因で問題になったことは一度もありません。
※Ricoは身長が200cmほどある
タトゥーを好ましくないと考えているとしても、それを理由に攻撃するという人はいないだろう。実際に、CodyもRicoもタトゥーが入っていることが原因で、不快な思いをしたことはないという。
1-2.タトゥーを理由に利用を断る温泉施設などについて、どう思うか。
では、タトゥーがあることで温泉施設を利用できない件についてはどう考えられているのだろうか。
■Cody Miles (U.S.A) Illustrator/Designer (コディ・マイルス アメリカ出身 イラストレーター/デザイナー)
I think it’s discriminatory to deny service based on having tattoos or not. People should be judged on their actions, and not their appearance. If you’re respectful of others, and you’re paying for the service, you should be treated equally.
I understand that tattoos aren’t appealing to some people, but neither are most of the “normal”bodies I’ve seen in onsen/sento. If someone is out of shape and flabby, should they be banned too?
日本語:タトゥーの有無を理由にサービスを拒否するのは差別的だと思います。
人は見た目ではなく、行動によって評価されるべきです。
他人に敬意を払い、サービスに対して正当な対価を支払っているのであれば、平等に扱われるべきです。
タトゥーが好きではない人がいるのは理解できますが、私が温泉や銭湯で見てきた「普通」の体の多くも、特に魅力的だとは思いません。もし誰かが不健康でたるんだ体をしていたら、その人も禁止されるべきでしょうか?
■Luke Freeman(U.K.) Travel Consultant(ルーク・フリーマン イギリス出身 トラベルコンサルタント)
生まれ育った国の文化的な背景があって、タトゥーを入れている人もいます。
例えば、ニュージーランドのマオリという先住民族はほとんどすべての人がタトゥーがあるので、タトゥーがあることで温泉を利用できないのは差別のように感じます。
欧米では、タトゥーと組織犯罪グループを関連付けることはありません。ですので、外国人は日本がタトゥーを規制する理由が理解できません。
■Rico Suhr(Germany) Freelance Photographer/Tour Guide(リコ・サー ドイツ出身 フリーランスフォトグラファー/ツアーガイド)
Different Country different rules!
Just follow them, especially as a foreigner!
I got no problem with that!
And you can always go and book a private Onsen where you can relax alone or with your family!
日本語:国が違えばルールも違います!
特に外国人としては、それに従うべきです。
私はそれについては、まったく問題を感じません。
タトゥーが入っていても貸切温泉を予約すれば、一人で、または家族と一緒にゆっくりくつろげるでしょう。
CodyとLukeが「タトゥーがある人は入浴お断り」であることは差別だと考える一方で、Ricoは日本の文化として受け入れるべきだという。
Ricoのように、すべての人が日本のルールとして受け入れてくれれば良いが、理解できないという外国人は多いだろう。
特に、タトゥーがアイデンティティである人にとっては、タトゥーがあることで利用を規制されてしまうことは、自分自身を否定されてしまっていると感じるかもしれない。
2.タトゥー容認へと変化する昨今
これまでは日本人はタトゥーを反社会勢力と結びつけて考える人が多かった。
しかし、今後はそれが覆るかもしれない。
なぜなら、若い世代の人々の多くはタトゥーをすでに容認しはじめているためだ。
2-1.タトゥー禁止を廃止すべきだと考えるZ世代
タトゥーをネガティブなものと捉える人が多いなか、近年ではZ世代を中心にタトゥーへの印象や考えが変化しているように見える。
2023年に株式会社RECCOOが実施したZ世代へのタトゥーに関する調査では、大学生の約6割が温泉施設などのタトゥー禁止を解禁すべきだと回答している。
引用:CircluAPP「公共浴場や温泉でのタトゥー禁止、大学生の63%が「解禁されるべき」と回答」
タトゥー禁止を解禁すべきだと考える人が過半数にのぼった理由は、タトゥーに興味を持つ若者が増加しているからだろう。
株式会社SheepDogが2021年に実施した「タトゥーに関するアンケート」の調査結果をみると、タトゥーに興味を持っている人は20代男性が3割近く、20代女性は4割近く存在することがわかる。
引用:STRATE「20代女性の約4割がタトゥーへの興味関心・経験ありと回答【タトゥーに関するアンケート】」
前述した株式会社RECCOOのタトゥーに関する調査「あなたの友人にタトゥーが入っている人はいますか?」という設問では、「いる」と回答した人は44%という結果に。
半数とまではいかないが、タトゥーが入っている友人がいるという人は少なくないようだ。
今後、若者のタトゥーへの興味が高まり、タトゥーを入れる人が増えた場合、「タトゥーを入れている友人と一緒にプールや温泉へ行けない」と悩む人が現れるかもしれない。
そうなると、タトゥーを許容するか否かは、インバウンド観光客だけでなく日本の若者に関連する課題となるだろう。
2-2.タトゥーを持つ人への歩み寄り
Z世代を中心にタトゥーに対するイメージに変化が見られることから、さまざまな組織や施設でタトゥーを容認する流れが生まれるようになった。
例1.タトゥー解禁を検討している防衛省
防衛省では人材不足に悩む自衛隊の募集を強化するために、タトゥー禁止の解除を検討している。
以前は、自衛隊への入隊希望者がタトゥーを入れていることを理由に応募を拒否した事例があった。
しかし、近年は自衛隊応募者が減少し慢性的な人員不足に直面していることから、
「自衛隊に適正な人物であればタトゥーがあっても採用しても良いのではないか」
「身体に小さなタトゥーがあるという理由だけで入隊を拒否するのは問題だと思う」
という声が上がっている。
参考:朝日新聞「労働力不足に対処するため、自衛隊のタトゥー禁止を解除する可能性」
例2.タトゥーがある外国人観光客への対応を周知した観光庁
観光庁はできるだけ多くのインバウンド旅行者に入浴を楽しんでもらいたいと考え、2016年に温泉施設などに「入れ墨(タトゥー)がある外国人旅行者の入浴に関する対応について」を周知した。
その際観光庁は「入れ墨をしていることのみをもって、入浴を拒否することは適切ではない」と発信している。
タトゥーをタブー視する国・ホンジュラスにおける変化
中米の国・ホンジュラスでは、日本よりもタトゥーに対してネガティブなイメージを持つ人が多いかもしれない。
ホンジュラス人口の約9割がカトリック信者で、敬虔なキリスト教徒の一部はタトゥーを罪だとみなしていることが要因だ。
しかし、近年はタトゥーの施術を受ける一般市民が徐々に増えているという。
サッカー選手や有名アーティスト、芸の人たちがメディアで自分のタトゥーを見せはじめ、タトゥーフェスティバルが開催されるようになった。
また、ホンジュラスに住む移民は家族の絆としてタトゥーを彫る人も多い。
とはいっても、タトゥーがあることを理由に嫌がらせを受けたり、警察官から質問されたりとまだまだタトゥーに対して厳しい目が向けられている。
3.タトゥーOKな2つの温泉施設
最後にタトゥーの有無を基準に利用を規制していない温泉施設を2つ紹介する。
タトゥー禁止の解禁を検討しているなら、参考になるだろう。
1.【岩手県一関市】古戦場
岩手県一関市にある入浴施設「古戦場」は、2021年にタトゥーがあっても利用を許可している旨をX(旧Twitter)で発信し、入口に貼り紙も提示したことで話題になった。
それより以前から、タトゥーを入れている人が利用していたが規制することはなかったが、あえて公表したのには理由があったという。
あえてタトゥーを容認することを公表したほうが、利用者が古戦場で入浴するか否か判断しやすいと考えたためだ。
なお、公表したあとも集客に変化はなく問題が生じたことはないという。
参考:AERA.dot「『タトゥーでも入場OK』に踏み切った入浴施設の現実 『入れ墨=反社』の印象が消えないワケは」
#インフォメーション
「古戦場」
場所:岩手県一関市赤荻字堺78-2
アクセス:JR大船渡線/東北本線/東北新幹線/秋田新幹線「一ノ関」駅よりタクシーで約12分
営業時間:10:00-21:30(食事は20:30まで)
公式サイト:http://kosenjyo.com/
2.【千葉県成田市】大和の湯
成田空港からも近い「大和の湯」も、古戦場同様に話題となった。
公式サイトの「Q&A」で、「刺青、ファッション・タトゥーがある方もご利用いただけます」と明記したからだ。
さらに、タトゥーを規制しない理由についても述べられており、次のように発信している。
「刺青をしていてもきちんと良い仕事をして社会に貢献している人もいれば、刺青をしていなくても悪いことをする人も大勢いる」
「見かけによって判断することをしないよう努力することが、新しい世代に向けて開かれた温泉の姿であると認識している」
#インフォメーション
「成田の命泉 大和の湯」
場所:千葉県成田市大竹1630
アクセス:JR成田線「下総松崎」駅よりタクシーで約10分
営業時間:10:00-22:00
定休日:なし
公式サイト:https://yamatonoyu.com/
まとめ
若者がタトゥーに興味を持ち、タトゥーが入っているインバウンド旅行者が日本で見られるようになったとはいえ、日本ではまだまだタトゥーに抵抗を感じる人は多いだろう。
温泉に入りたいと考えるインバウンド旅行客は多く、いつまでもタトゥーを規制してしまうと売上拡大のチャンスを逃してしまうかもしれない。
とはいえ、タトゥー解禁を検討することをためらう施設もあるはずだ。
よって、まずはタトゥーへの捉え方を再考してみてはどうだろうか。
そのうえで、解禁するか否かを検討しても良いだろう。
重要なのは、頭ごなしにタトゥーを禁止するのではなく、
「なぜ日本人はタトゥーに対してネガティブな感情を持っているのか」
「なぜタトゥーを入れるのか」
これらを考えた上で、答えを出すことをおすすめしたい。