【インバウンド】欧米人旅行者に本当に喜ばれる旅館の朝食とは?

朝食は、日本の旅館がインバウンドの集客を考えるとき、注意したいポイントの一つだ。旅館の朝食といえば、ご飯と汁物に加え、焼き物や和え物など、何品もの総菜が並ぶ和食が定番である。日常を離れて豪華な日本料理を味わいたいという人には理想的な食事だが、食習慣の異なる欧米人には、それがネックになることがある。
ハートランド・ジャパン(リベルタ株式会社)では、インバウンド専門の旅行会社として多数の訪日客と接した経験から、欧米人観光客の朝食についてフィードバックをまとめた。さらに、多くの欧米人に喜ばれる朝食について考察し、旅館が大幅な変更をせずに提供できる朝食を提案する。

1.インバウンドの欧米人が体験した旅館の朝食に対するフィードバック

日本旅行で宿泊先に旅館を選ぶインバウンド客の多くは、和風建築や客室、浴衣など、日本ならではの雰囲気を味わいたいと考えているだろう。もちろん、日本料理に期待して行く人も多いにちがいない。

 

しかし、実際、旅館に宿泊した欧米人に聞くと、朝食の量が多いということや和食ばかり続くことに困惑したという意見が集まった。

ここでは、観光庁のプレスツアー事業に参加した外国人記者の旅行体験をまとめた「旅館向け インバウンド受入ポイント集」も参考にしながら、旅館の朝食に対する欧米人観光客のフィードバックを整理して紹介する。

 

1-1. 量が多い

「旅館の朝食の量が多い」とは、インバウンドの観光客からよく聞く話だ。これは、「旅館向け インバウンド受入ポイント集」をはじめ、ハートランド・ジャパンが実施するツアーの参加者や、訪日観光に詳しい東洋文化研究者アレックス・カー氏などの専門家にも指摘された点である。

 

皿数の多さや料理の豪華さでおもてなしをする旅館の1泊2食付きというサービスは、昭和の高度経済成長期の温泉旅行ブームから始まったと言われている。しかし、料理に満足して欲しいという思いから提供される料理は、実は欧米人にとっては重荷になっているという現実に目を向けなければならない。出された料理を残していけないという考え方から、残せないプレッシャーを感じてしまうのである。だから今対処が必要なのである。

 

実際、食事の量を減らすといった希望を受け付ける旅館はあるだろうが、サイトに英語で食事に関しての要望に応じられる旨を明記しておくだけでも、インバウンド客の反応は変わるにちがいない。

 

また、旅館側に責任を委ねるだけでなく、日本の旅行会社などランドオペレーターが宿を手配する際には「ミールコントロール」をしなければならない。予約時などに宿泊客へ要望を聞くなどして、朝食の量や皿数を減らす努力が欧米客には必要なのだ。

 

最初に量や皿の数を少なくして、おかわり自由や追加可能などとすれば、料理を残すことなく、多くの人が満足できる朝食になるだろう。

 

1-2. 和食が中心である

米を中心とした和食の朝食は、米飯に慣れている日本人やアジアからの観光客には好評でも、米に慣れていない欧米人にとっては、ハードルの高い食事だ。「朝からご飯を食べる気にならない」「朝だけは洋食を食べたい」といった意見が多く聞かれる。いくら日本料理が好きでも、寝起きは食習慣の違いを痛感する人が多いようだ。

 

1-3. 同じような料理が続く

前項と重なる点ではあるが、醤油ベースの料理が多い和食を毎食出されてしまうと、辟易するという声も欧米人からよく聞かれる。例え、食材を変えても、調味料や調理法が似ていると、外国人には同じような料理だと思われるケースが多い。

 

欧米豪からの訪日客は、アジアからの訪日客より日本の滞在日数が長い傾向にある。

観光庁がまとめた2024年の「インバウンド消費動向調査」によると、観光・レジャー目的で訪れたアジアからの訪日客は3.6泊〜9.7泊、欧米豪からの訪日客は10.6泊〜15.5泊となっている。

 

白飯と味噌汁、焼き魚、惣菜といった典型的な和食の朝食を出されれば、最初の数日は非日常体験として美味しく食べても、1週間、10日間と同じような内容が続くと、残す人が増えていくだろう。

 

日本の旅行会社などランドオペレーターが欧米客を迎えるときには、量の調整と同様に、連日似たメニューが続くことを避けるための事前確認と調整の努力が必要である。連日湯豆腐や鮎の塩焼き、塩鮭といった料理が連続してしまう可能性が大いにあるからだ。塩鮭は日本の朝食として定番だが、それが毎日続くと、日本人であっても飽きる人は多いだろう。

 

1-4.欧米人が敬遠する食材がある

日本旅館では、白飯に生卵や納豆は定番の朝食メニューである。しかし、欧米観光客に話を聞くと、生卵や納豆に抵抗を感じる人が多いようだ。食べつけないものや苦手なものがあれば、毎食何品か残すことになるだろう。

 

宿泊客には「食事制限があるか?」と聞くことも必要だ。ベジタリアンやヴィーガン、ペスカタリアン、ハラル、グルテンアレルギーなど、食べられないものがある人にとって、食事の問題は深刻である。「食事制限があれば教えてください」という一言があるかないかで宿泊客の満足度は格段に変わってくるにちがいない。さまざまな背景を持つ外国人観光客が増えるにしたがい、今後は食事制限を持つ人たちへの配慮が求められていく。

 

食事制限について聞いた手前、対応を迫られることになるが、もし、その対応ができたならば、お客様の満足度が格段に上がるだろう。対応ができない、不安がある、どう対応したらいいかわからないという場合は、門前払いするのではなく、まずは地域の専門家に聞くなどして食事の対応をしてあげたい。もちろん対応ができないなら「できない」とハッキリと言うことも大事だ。だが、もしも少しの工夫で対応ができるのであれば、なんとか対応をしてお客様に喜んでもらいたいものである。「この方法でなら対応できますがいかがですか?」という何かしらの選択肢を提案する姿勢を見せるだけでも、相手は受け入れ側の配慮を感じてくれることだろう。

 

2.インバウンド客に喜ばれる朝食とは?旅館が無理なく始められる2ステップ

多様な食文化を持つインバウンドの欧米人に喜ばれる朝食とは、どんなものがあるだろうか?彼らが残さずに好きなものを食べられるようにするには、和洋食の料理を並べたビュッフェ形式にすることで解決する。

 

しかし、これまで、独自の文化を守ってきた旅館にとって、いきなりビュッフェ形式に切り替えるのはハードルが高いだろう。旅館のスタイルを崩さずに、欧米人観光客に提供できる朝食について考えてみよう。

 

2-1. <ステップ1>量を選択可能にする

和食の朝食を宿の自慢とする旅館や、和食の伝統を引き継いでいきたい施設など、朝食のスタイルを大きく変更したくないときは、朝食を次の2つから選択式にするという方法がある。

 

1)レギュラー:量や皿数を減らさない通常の和食

2)シンプル:通常の和食から皿数や量を減らしたもの

 

2)の和朝食は、味噌汁、ご飯、卵焼きなどのシンプルな内容にする。いずれもインバウンドの欧米人には通常料金を払ってもらい、どちらがいいか宿泊客に委ねるというものだ。

 

宿泊者が簡単なメニューの中から、焼き魚を頼んで、納豆を頼まないなど、自分の好みに合ったものを注文できればなお良い。朝食を運ぶときに漬物や納豆などの小皿を見せて、選んでもらうこともできるだろう。

 

2-2. <ステップ2>和洋食を選択可能にする

旅館が前述の方法に慣れてきたときや、インバウンドの集客を積極的に行いたいときは、和食のほかに、洋食の朝食プランを用意すると選択肢が広がってよい。

 

洋食プランの内容は、喫茶店のモーニングのようにシンプルなもので十分だ。十分というよりもむしろそれが求められていると言っても過言ではない。結局は、トースト、卵料理、コーヒー、ヨーグルト、フルーツ、サラダといった日本の純喫茶で出すモーニングセットがもっとも欧米人に喜ばれる。新たにものごとを考えるのではなく、今あるものを活用する視点で対応ができることにメリットがある。

 

また、コーヒーを飲まない人もいるため、紅茶やハーブティなどのティーバッグを置いておくのもおすすめだ。和食の場合同様に、もっと食べたい人にはサラダや和食のおかずなどを選択式にすると、インバウンド客の印象がさらに良くなるだろう。

 

「旅館向け インバウンド受入ポイント集」によると、「コーヒーや洋朝食などのオプションがあると安心感がある。」「2泊目に洋朝食を選べたのは◯」という意見があった。食べ慣れた洋食を選べることは、訪日客にとってプラス要素となっている。

 

コラム

#インバウンド客の人気を集める旅館の朝食例

東京都台東区に位置する「澤の屋」は、宿泊客のうち、外国人の比率が90%と、圧倒的に訪日客が多い旅館だ。もともと日本人向けの旅館だったが、館内での説明や公式サイトにおいて多言語に対応するなど、外国人が過ごしやすいように少しずつ工夫を加えている。

 

朝食は、宿泊料とは別料金で、洋食と和食の2種類から選択可能だ。

洋食はトースト2枚と目玉焼きかスクランブルエッグ、和食はおにぎり2個に味噌汁と、いたってシンプルな内容である。コーヒーと紅茶はセルフサービスで各自自由に入れられる。

 

宿の公式サイトには、これらの朝食について、わかりやすく手描きの図解と簡単な英語の説明、料金が公開されている。同サイトには、イスラム教徒など、食べられない食材がある人のために、朝食に豚肉やアルコールが使われていないことも明記されている。

公式サイトを見るだけでも、インバウンド客に慣れた旅館ならではの配慮が伺える。

 

澤の屋

公式サイト:http://www.sawanoya.com/

 

 

参考資料:
観光庁「旅館向け インバウンド受入ポイント集」
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001878747.pdf
観光庁「【インバウンド消費動向調査】2024年暦年の調査結果(確報)の概要」
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001856155.pdf

まとめ

旅館のスタイルを変えずにインバウンド客にも喜ばれる朝食を考えてみよう

インバウンドの欧米人に喜ばれる旅館の朝食について、参考にしていただけただろうか?
「旅館向け インバウンド受入ポイント集」によると、外国人記者はサービスのすべてをインバウンド用に変えてほしいわけではないと言っている。旅館は、量の調整や、和食と洋食の選択式にするなど、自分たちのできることから始めると良いだろう。旅行会社や地域などと連携して、さまざまな文化を持つインバウンド客に寄り添った朝食作りができるのが望ましい。

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【Hiroshima Streetscape of Yutakamachi-Mitarai】【Niigata Wakabayashi-tei House】©経済産業省、【表示4.0 国際】ライセンス https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/