インバウンド客の苦手な日本食は?外国人が苦手な理由や解決策を提案

インバウンド客に日本食を提供する際には、外国人の苦手な食べ物や食べ方に注意が必要だ。「日本食の豊かさを感じてほしい」「地元の旬の食材や郷土食を食べて地域をもっと知ってほしい」と思って好意で料理を提供しても、かえって彼らに喜ばれないケースは少なくない。食習慣や好みの違いが原因で、外国人との間にすれ違いが生じることもしばしばある。この記事では、多くの外国人が苦手とする日本独特の食べ物や食べ方を紹介する。「外国人だから」と諦めず、彼らに満足してもらえる方法を探してみよう。
目次
1. インバウンド客の苦手な日本食とその理由

インバウンド客にとって、日本食は旅の楽しみの一つだろう。寿司、天ぷら、和牛、ラーメン、餃子など、外国でもよく知られた和食を求める訪日客は多いが、日本の多彩な食事には、彼らが苦手と思う食べ物や食べ方がある。
ここでは、多くの外国人が苦手と感じる日本食を紹介するとともに、その理由を考察する。外国人が食べられない理由には、食物アレルギーやヴィーガンといった信念、宗教もあるが、嗜好などの理由で食べられない・食べたくないものを中心に取り上げる。
1-1. ネバネバ・ヌルヌルの食べ物〜納豆やとろろ、めかぶ、もずくなど〜
納豆やとろろ芋、めかぶ、もずくなど、ネバネバ・ヌルヌルした食感の食べ物は、インバウンド客が苦手とする日本食の代表格だ。「何度も試したけどあの食感に慣れない」「見た目が苦手」と、拒否する外国人は多い。
これらの食べ物は火を通す、ほかの食材と混ぜるなどの工夫をすると、見た目や食感が変化する。納豆であれば納豆チャーハンにする、山芋はすりおろしてグラタンにするなど、さまざまなレシピを考えてみよう。納豆は独特の匂いが苦手な人も多いため、キムチなど風味の強いものを加えるのもおすすめだ。
1-2. 生もの〜鳥刺し・生卵など〜
外国人の苦手な食べ方の一つは、魚介類や肉類、卵の「生食」だ。魚介類は、外国でも寿司が知られているため、食べる人が増えている。なかでも、牡蠣は例外的に欧米でも生で食べられている食べ物だ。しかし、日本でも苦手な人がいるように、鶏肉の刺身である鳥刺しや生卵などを食べられない外国人が多い。
鶏肉や卵の生食に抵抗を持つ人が多いのは、「生で食べると食中毒になる」という考え方が外国で定着していることにあるだろう。外国人がSNSで「日本では鶏肉を生で食べる」ことを取り上げて、話題になったこともある。
解決策の一つとしては、鳥刺しや生卵が生食用にするために、徹底的に衛生管理されていると説明することだ。しかし、それでも苦手意識が消えない人には、火を通して提供することも検討するべきだろう。
1-3. 海産物〜イカ・タコ・魚卵・海藻など〜
日本は海産物が豊富なことで知られるが、日本独特の海産物に苦手意識を持つ外国人は少なくない。特に、イカやタコをはじめ、イクラ、スジコ、明太子、数の子といった魚卵、海苔やわかめなどの海藻類などを食べたことがない外国人は多い。特に、タコは韓国や南欧以外では食卓に登場することが珍しく、「デビルフィッシュ」という蔑称で呼ぶ地域もあるほどだ。
イカやタコ、魚卵は見た目もあるが、口に入れたときに違和感を持つ人も多い。イカ・タコは噛みきれない、魚卵はプチプチとした独特の感触が気になるようだ。
焼き魚や煮魚なども、魚に頭がついたままだと、「食べにくい」「グロテスク」「魚に見られている」などと苦手に感じる外国人は、シラスやシラウオなどの小さい魚でも目が気になるという。
この場合、目や頭などの形が見えないようにすると、食べられる人が増える。実際、タコを生地に入れて焼いたたこ焼きは「美味しい!」と感じる人が多い。魚は尾頭つきではなく、切り身で出す、先述したシラスやシラウオなどは卵とじにするなど、工夫して提供すれば、美味しく食べられる人が増えるだろう。
1-4. 生きたまま生食するもの・生きたまま焼いて食べるもの〜シラス・シラウオ・アワビ・イカ・タコ・エビなど〜
前述の海産物は食べられても、生きているものをそのまま提供したり、焼いて見せたりすると、食べられなくなる外国人が多い。
日本には、魚やイカの活け造り、シロウオの踊り食いなど、魚介を「生きたまま」食べる文化がある。まだエラや口がパクパクと動く鯛やカレイ、足が動いているイカやタコなど、見慣れた人には新鮮で美味しそうに映る。生きたまま網焼きにするアワビも同様だ。慣れた日本人は、網の上で身をよじるアワビがかわいそうだと思っても、調理された後は美味しく食べられる。
一方で、その文化に慣れていない外国人には残酷と取られがちだ。オーストラリアでは客の前で生きた食材を調理すると処罰され、イギリスなどではタコやカニなどを生きたまま調理することは禁止されている。このように、欧米では禁止すべき行為という認識の人が多い。
外国人にぜひ生きたままの食材を食べてもらいたい、いかに新鮮か目の前で料理したいと思うのであればまずは日本には文化として、生きたままの魚介を味わう文化があることを説明することが必要だろう。
1-5. ホルモン(内臓)〜心臓・タンなど〜
日本でホルモンといえば、焼肉店や居酒屋の人気メニューだが、外国では肉や魚の内臓になじみのない国・地域が多い。内臓を食べるのは、ヨーロッパを中心に、ヨーロッパからの移民が多いアフリカや中南米などだ。
内臓を食べたことがない人は、特に心臓やタンなど、元の形がわかるものを苦手と感じる人が多い。また、ミノなどのホルモンは、すでに述べたイカ・タコ同様になかなか噛みきれないという点も敬遠される要因となる。食べ慣れていると「歯ごたえがいい」と感じても、慣れていないと違和感が残るようだ。苦手な人がいる場合、食べやすさを考えて切り方を工夫すると、抵抗なく食べる人が増えるだろう。
1-6. 淡白な味の食べ物〜豆腐・こんにゃく・はんぺんなど〜
外国人のなかには、豆腐やこんにゃく、はんぺんなど、控えめな味わいの日本食を苦手と感じる人がいる。豆腐の場合、サラダや鍋料理、揚げ出し豆腐など、味がついていれば問題なく食べる人でも、湯豆腐や冷奴で食べると、味が薄すぎると感じるようだ。似たような理由で、白飯を苦手に思う人がいる。豆腐・こんにゃく・はんぺんなどは独特の食感が苦手な人もいるが、調理次第で味や食感は変えられる。
外国人が苦手な食べ物は、ほかにもイカの塩辛の匂い・食感、梅干しの強烈な酸っぱさ、砂糖入りの甘いすきやきなど、慣れない食べ方、食感、味、匂いに違和感を感じやすいようだ。
2. インバウンド客の苦手な日本食への解決策

インバウンド客を受け入れるときには、これまで紹介したように、多くの外国人が苦手とする食べ物の傾向を知っておくと、調理法を変えるなどの対策を講じやすい。しかし、実際のところ、個人の嗜好は多種多様だ。外国人全体の嗜好の傾向だけでなく、それぞれのお客様の嗜好や文化背景に寄り添えれば、彼らの好感度は上がるだろう。
「地域の特産をもっとインバウンド客に知ってほしい」「店により多くの外国人に来てほしい」という希望があるときには、次のように工夫してみてはいかがだろうか。
2-1. 外国人にわかりやすいメニューを用意する〜写真や多言語の食材・調理方法付き〜
宿や飲食店で外国人を受け入れる際には、どんな料理かわかるように、写真やイラスト、英語など多言語併記のメニューを用意することが望ましい。その材料や調理名といった料理の内容を、少なくとも英語で用意できれば、お客様は安心して注文できる。
材料名や調理名の記載は、苦手な食材や調理法を事前にお客様が確認できるだけでなく、食物アレルギーやヴィーガン、宗教上食べられない人への配慮にもなる。その場合は、調味料や出汁などの材料にも気を配りたい。豚肉や鰹節の出汁などを食べられない人もいるからだ。さらに、料理写真に番号を振っておくと、スタッフとお客様の言葉が通じなくても、勘違いが少なくなるのでおすすめだ。
宗教や⾷習慣上⾷べられないもの

画像引用:国土交通省北海道運輸局「外国人観光客ひとり歩き受入マニュアル」
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2-2. 食べ物や調理方法の文化的背景を説明する
外国人に独特の食べ物や料理を食べてもらいたいときには、「日本では生き物をどう慈しんでいるか」「なぜその食べ方なのか」という文化的背景や食材・料理の魅力を伝えるようにしたい。
詳しく説明することによって、外国人は食材や調理法への理解が深まり、お互いに歩み寄れることがある。
一緒に調理する機会を設けると、親近感を持つ人も増えるだろう。
フレキシブルに対応したうえで、お互いの考え方や文化を学ぶ姿勢で臨むと、相互に受け入れ、尊重できるようになるだろう。
#インバウンド客への文化背景説明例〜鵜飼〜
人と鵜が協力して魚を捕る「鵜飼」は、岐阜県をはじめとした地域の伝統的な漁法だが、ときに「鵜への虐待」と批判されることがある。
外国人に鵜飼を見せるときには、鵜匠と鵜は家族でありパートナーであること、鵜は後で餌をもらうための仕事をしていることを丁寧に説明するのが大事だ。
その際には、カナダや北欧の犬ぞり、養蜂、警察犬など、人と動物が協力して行う世界各国の仕事を取り上げると理解が深まりやすい。
2-3. 事前に食べられないものを確認する
外国人の苦手な食べ物を知るには、外国人にわかりやすいメニューを用意するだけでなく、予約時やお店でのオーダー時に確認すると良い。会話を通じて提供できるメニューを組み立てられれば、個々のお客様へ、より丁寧な対応が可能になる。
オーダーを受ける際には、「提供できること」「提供できないこと」をお客様に伝えることも重要だ。提供できないときや提供できるか不明なときは、状況を正確に伝えないと、誤解や不満が生まれやすい。お客様に対応するスタッフと調理場が連携して、誠実な対応を心がけよう。
2-4. 料理を選択制にする
多くの外国人が苦手とする生卵や納豆は、日本の朝食の定番メニューだ。
食事を用意する際には、インバウンド客に選択肢を与えられるように、納豆や生卵と、それ以外の料理を選べるようにしたい。
苦手な食材を避けたいと考えるインバウンド客がいる一方で、日本ならではの食事を積極的に食べたいと考える人もいるからだ。
宿泊施設で食事を提供する際には、白飯と味噌汁といった典型的な和食だけでなく、洋食メニューなども用意すると、メニューの選択肢が広がって喜ばれるだろう。
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2-5. 外国人の苦手な点をカバーしてアレンジする
前の章でも紹介したように、外国人にとって苦手な日本食を美味しく食べてもらうためには、食べやすくなるように、次のようなアレンジを加えて、新しいレシピを開発してみよう。
- 調理法を変える
- 味付けを変える
- 切り方を変える
- ほかの食材とあわせて食材の味を緩和させる
など
より多くの外国人に好まれるだけでなく、日本人にも新しい一品として提供できる。例えば、梅干しはソースや味のアクセントとして使うと、多くの外国人が苦手とする酸っぱさも強みとなる。
なお、卵は、生卵が苦手でも、半熟が好きな外国人は数多くいるため、可能であれば事前に好みを確認して、焼き具合などを調整できるようにしたい。
まとめ
インバウンド客の苦手な食べ物を把握して相互理解に努めよう!
日本ならではの食べ物や食べ方が発展し、継承されてきた日本食は、国際的に評価される一方で、独特な食材や調理法に戸惑うインバウンド客が少なくない。料理を選択制にする、苦手な点をカバーするなど、フレキシブルな対応ができれば、外国人が食べやすくなるだろう。
料理を提供する側は、さらに料理や調理法などの文化的背景を説明して、日本の食文化への理解に結びつけたい。日本の食文化や伝統的な暮らしは地域や国の個性である。多様な文化を持つインバウンド客が増えるに従って、独自の文化を否定するのではなく、お互いの文化を尊重した受け入れ方が求められていくだろう。