コロナの後のインバウンドってどんな感じ?

コロナの後のインバウンドってどんな感じ?

ハートランド・ジャパンは、これまで欧米を100%ターゲットにインバウンドに取り組んできました。
東京や富士山、京都だけではない、欧米顧客を地域に誘客することによる国際的な地域活性に取り組んでいます。

英語の「Touristy」という言葉があります。この意味はネガティブな響きを持った言葉です。

・観光地化された
・観光客ばかりの
・観光客でごった返した
・観光客を当て込んだ

というような意味で使われており、そのようなガイドブックに載っているような一般的な観光地を訪れるのは、少しダサいという価値観が旅慣れた人たちの間にはあり、欧米系の中では特にそれが顕著です。観光地化されたところからエスケープしてオーセンティックなありのままの暮らしぶりに触れられるところに行きたいという旅に求める志向性です。観光地がどこもオーバーツーリズムで観光公害が懸念されるようになってきているから、その動向はより顕著となっています。

この概念は、TouristとTravelerの言葉の意味合いの違いに顕著に表れています。

【TouristとTravelerの違い】
・Touristは有名観光地に行きいたいと思っているが、Travelerは観光公害を敬遠して、どこか知らないところにいきたいと思っている。
・写真を撮る際に、Touristはその場所と自分が映えるように撮影。Travelerは訪れたその土地そのもののリアリティを撮影。
・宿泊に対しては、Touristは快適さを求め、Travelerはそれにこだわらない。キャンプやテント泊、野宿も選択肢になり得る。
・予定については、Touristはあらかじめ決められた行程を予定通りに回ることが重視するが、Travelerはあえて決めずに臨機応変にその時の気分で行き先を自由に変える。
・名所に行く際は、Touristはそこに行くことが目的なので、その場所までは快適な移動手段で、早く短い時間で行きたいと思っているが、Travelerにとってはそこに行くまでの過程自体にこそ意義があると考えているので、早さや快適さよりもその道中の試練や時間にこそ楽しみがあると考えている。
・Touristは団体旅行だが、Travelerは個人、あるいはスモールグループ(少人数)。
・Touristは旅を楽に快適にするための入念な準備をするが、Travelerは行き当たりばったりでよく、多少の困難や試練があった方がむしろいいと考えている。
・Touristは旅先で快適に過ごせることやリラクゼーション、買い物、高級グルメ、写真映えを求め、Travelerはアクティブで学びが多い冒険を求める。
・Touristは観光を求め、Travelerは体験を求める
・Touristは時間や行程を優先し、Travelerは旅先での思い通りに行かないハプニングを待っていてそれを楽しむ
・Touristは自国の価値観を旅先に持ち込みそれを維持するが、Travelerは旅先の世界に没入し、その価値観を自分の中に取り入れる

パッと見では、結局Travelerってバックパッカーのことよね?と言われそうですが、近年のトラベル市場の志向性の変化を見ていると、そうとばかりも言っていられないのです。

トラベルのトレンドは冒険心が旺盛なバックバッカーが作っているという事実です。冒険はしますが、お金はそんなに払わない(払えない)。泊まるところはホステルやゲストハウス。貧乏旅行を楽しむ層です。政府や地域からしたらあまりいい客ではないかもしれません。私たち旅行会社もこうした層はターゲットにならないと考えています。彼らは、旅行会社を通じた予約せず、自分たちでなんでもかんでもやってしまいますし、そもそも旅に使えるお金があまりないので旅行会社の顧客になり得ないからです。

しかし彼らは新たな冒険を常に求めていて開拓精神が旺盛なので、トレンドの先頭集団となり得ます。新たな旅先を開拓する冒険旅行により自己研鑽をしたいと思っている層なので、新しい旅先を常に探しています。多少の不便は厭わないという価値観の持ち主たちですので、秘境であればあるほど彼らの好みに合致するということが言えます。そんな開拓精神の持ち主がバックパッカーなので、トレンドを作る突破口は実はバックパッカーにあるということです。
しかし、ここで大事な点は、バックパッカーを頑張って誘致しましょう、という話ではなく、バックパッカーのようなトラベルの形態がシニア層にシフトしてきていて、お金も時間もある富裕層もバックパッカーのような冒険(アドベンチャー)を求めているということです。それが今のトレンドなのです。ATTA(アドベンチャートラベルトレードアソシエーション)の統計によると、アドベンチャートラベルの顧客層は1日あたり5-10万円/人日を旅行に使い、年収も1,000万円を超える比較的裕福なアッパーミドル層以上の人たちです。この顧客は秘境を求めているので、その層を地方に誘致して消費を促せば地方活性につながる。その絶好のターゲットになるということです。

バックパッカーというと大学を卒業して、就職するまでの一定期間を旅して回って「自分は何者なのか」を探究する20代の若い旅人というイメージですが、そのバックバッカー的な価値観や精神性が40代-50代、そして60代以上にも引き継がれているということです。欧米のシニアはアクティブです。そして体を動かすことや学ぶことが大好きです。常に精神的に充足感を求めています。旅には多少の試練がある方が冒険チックで楽しいと考えています。観光公害に加担したくないので、有名観光地はない人知れない新たな地域を求めています。

それが近年、日本で言われているアドベンチャートラベル市場の価値観です。

クルーズや大型バスによる「ザ・観光」「消費観光」「表面観光」、つまりマスツーリズムとは一線を画した真逆の旅のスタイルです。この点が、中国、韓国、香港、台湾などの東アジア地域とは、大きく違った志向性なのです。これまで日本は誘客数を指標として東アジア中心の戦略をとってきましたが、これからの伸びしろは欧米人にあると考えられます。

今後日本がインバウンドにおいて4,000万人、6,000万人と誘客し、世界と伍していくためには、欧米豪をターゲットとし、以下のような取り組みをしていく必要があるということです。

1)欧米豪の初訪日=ゴールデンルート+地方を組み合わせる

2)欧米豪の初訪日=リピートさせx地方に行かせる

がキーワードです。

1について。初めての日本旅行では、東京、富士山、京都、広島に誰もが行きたいと思っています。だからそれは避けられません。しかし2回目、3回目はどこか知らないところに行ってみたいと思うものです。ですのでその顧客層をプラスアルファで地方にも行かせること戦略です。ゴールデンルート、広島、中山道木曽路、飛騨高山・白川郷・金沢、熊野古道中辺路、白馬、ニセコなどといった、すでに欧米では有名で指名買いがわざわざ入るようなデスティネーションを基軸として、そこからいかに分散させるかということです。広島は実に便利な場所で、出雲や石見銀山には3時間でバスで行けますし、萩・津和野も同様、四国にも九州にもアクセスがよく、欧米人が必須で訪れる場所です。中山道木曽路は馬籠から妻籠、薮原から奈良井のウォーキングルートが、熊野古道は中辺路ルートが人気で、共にすでに宿のキャパシティは満杯、オーバーツーリズムが叫ばれてきています。ですので、そこに取って代わるオルタナティブなルートが必要となっているのです。

2について。アメリカの休暇は1週間程度と日本と近しい傾向があります。が、ドイツやフランスなどの欧州では2週間、3週間の休暇を取得することができます。また豪州も有給休暇の取得は義務化されているので休暇は長く取れる傾向があり、時差も少ないので訪日しやすい傾向があります。こうした点を踏まえて、初回の訪日で「いかに日本のオーセンティックな地方を体験させるか」が大事になってきます。またもう一度行きたいと思わせるためにも「ゴールデンルート+地方」の施策により、地方を初訪日客にもテイスティングさせ、その味をしめた顧客を日本の地方に再訪させる。これが今日本に求められている戦略です。ゴールデンルート一辺倒からの脱却が今求められています。

旅の目的な何でしょうか?

それはひとそれぞれによっても、また旅のタイミングによっても違うでしょう。

「単なるリラクゼーション」「ショッピング」「グルメ」「ラグジュアリー感」を求めることもあれば、自分の特定の興味関心(自社仏閣・城郭、アニメ・マンガ、J ポップ…)の聖地に行って本場に触れたいということもあるでしょう。これらは従来型で既に顕在化されているマーケットということができます。これらは「物質的」なものであり、「消費」するものと言えるでしょう。

一方で「挑戦による自己変革」や「自分の精神世界の探訪」「家族や仲間との絆を深くすること」「リトリート」などは、旅のビフォアアフターによる「精神的な変化」を求める志向性で、物質的な消費活動ではなく、「自己への投資」(旅先での体験という無形のものを自分に投資することで変化を期待する行動)で、単なる物見遊山なサイトシーイングや消費観光とは一線を画したマーケットと言えます。これまでインバウンドの世界ではこの精神的な満足感の需要については、マーケットとしてのカテゴライズしにくくあまり語られてこなかったため、なんとなく需要があることはわかっていたけど、これといった対策はしてこなかったということになると思います。

精神的な満足感を得るための自己投資は、旅先で登山やスノーボードで新しい山にチャレンジしたいということもあるでしょうし、合気道や居合道を習いたい、お遍路や熊野古道を完歩したい、サイクリングで日本を縦断したい、ということもあるでしょう。また「地域への没入」「地域住民との交流」「地域の歴史や文化の自分に対する注入」を求めることもあるでしょうし、「自然の保全」などで地域の環境保全に貢献したいということもあるでしょう。これらはな旅先でのディープな体験に自分のリソース(時間、お金、体力、知識などの資源)を投入することによって、旅のビフォアアフターによる精神的な変化を求めている訳です。その行為自体も楽しいことですし、地域からの感謝の気持ち、そこから得られる精神的な充足感、そこから得られる自己の成長感や満足感にリソースを投資をしている訳です。

これはバックパッカーの価値観と近いです。

この価値観を潜在的に抱えている層は、大人になってもバックパックを担いで旅をします。大人になると、お金と時間に余裕が出てきて、難易度も距離も時間も使うお金も自由に調整ができるようになるので、より大人らしくゆったりと好みの快適さで冒険旅行を楽しめるようになっています。今、この大人のアドベンチャートラベルの層に注目すべきであると当社は考えています。
物質的な消費や写真映えではなく、旅の記憶を深く刻むことにこそ旅の価値があると考えている層です。
日本に来てカヤックができるようになった。日本で座禅をして心が整った。今日は20km歩き通すことができた、2,000mの標高を登ることができた、日本海から太平洋に抜けることができた、などという達成感。そして、地域の中に入り込むことによって得られる地域没入感や自己の価値観の変革、そのような体験を求めていて、そこにお金を投資したいのです。その人たちは、それこそが上質の旅であると考えています。

ちなみに、ラグジュアリーマーケットは、これまでトラベルの世界で「あこがれ」の存在でした。豪華なホテルで豪華な体験をする。自分では何もせず、誰かにやらせる。左うちわで「今日はあなたたちはどうやって私を楽しませてくれるの?」と受け身の贅沢三昧のトラベルに価値があると考えてきました。どれだけ豪華で私だけの特別な体験を提供されるのかというラグジュアリーマーケットの価値観です。

しかしそのラグジュアリーのマーケットがアドベンチャーに寄ってきているのです。

ミレニアル世代の台頭やインターネットによる情報の拡散により、価値観が多様化してきた昨今、受け身の旅行ってどこかダサい。成金的な旅の楽しみ方ってカッコ悪い。消費するだけの楽しみ方って本質的な楽しみじゃない。上げ膳据え膳の体験なんて自分がした体験じゃないから、もっと自分に試練を課してそれを楽しみたい。もっと地域の人のありのままの暮らしを知りたいし、どうせお金を使うなら地域の課題解決に役立つことに使いたい、写真映えのその先にあるストーリーを自分の中に取り入れたい、と考える人たちです。

つまり贅沢こそが旅の醍醐味と考えていたラグジュアリー層が世代交代してきていて、その人たちは今アドベンチャーを求めてきている図式なのです。

これが今の欧米のトラベルマーケットの動向です。

30歳を超えると収入も安定してきます。道具を買うお金もできるので遊び方も多様になりますし、そのスキルもアップして上手になってきます。自国でマラソンをやっている人は旅先でも走りたいのでコースを探しています。サイクルリストやサーファーだってそうです。その人たちの受け皿となるのが日本におけるアクティビティのサプライヤーです。

今、これらの地域サプライヤーの国際化が求められています。国際化というと難しく聞こえますが、弊社のような旅行会社ではスルーガイド(全行程を通訳として添乗)をつけるので英語の面は心配は要りません。ただ必要なのは、自国でそのスポーツを楽しんでいる人たち向けの受け皿です。具体的にはファミリー向けの初心者コースしか提供できない日本の実態があるので、もっと挑戦的なコースを設定するなど、そのアクティビティのバラエティが必要なのです。サプライヤーの方々は初心者やファミリー向けの日曜日の半日プログラムや国内の中高生教育旅行の体験受け入れに慣れてしまっているので、どうしてもその頭から抜けきれません。しかし、欧米系の顧客の中には多くの中上級の人たちがいます。ですのでプログラムのレベル選択ができるようなバラエティを提供することが大事になってきます。これが今後ウォーキング、ハイキング、登山、トレッキング、サイクリングやカヤッキングにも求められてきます。

また旅先の「宿」に求めることは、千差万別です。同じ人であっても、ラグジュアリーないい宿に泊まりたいこともあれば、キャンプでもいい、ということもあります。宿に対する嗜好性はその人のタイミングやその旅に何を求めるか?によって変わってくるのです。違った言い方をすると、民宿だって、旅館だってチャンスはあります。決して外国人=高級ホテルではないのです。それがアドベンチャー層(欧米系)の一定の顧客層であり、その顧客層を地方に誘致することが日本のインバウンド産業を活性化することにもつながり、日本が目指す国際化のあり方であると弊社は考えています。特別なことはしなくていいです。ありのままの民宿や旅館のスタイルでよいです。そこに本物らしさ、ありのままらしさがあります。多少の試練はあった方がいいのです。

コロナの後のインバウンドってどう変化しているのか?

私が考えるポイントは以下です。

1)リラクゼーションから達成感へ

 その場所で自分は何を達成できるのか?が大事なので、「ではこれからなになにをやってみましょう」と、なんらの体験を促して達成感を感じさせる挑戦や試練を積極的に提供すること。

2)写真映えからストーリーへ

写真映えのその先にあるその土地や人にまつわる無形のストーリーを伝え、写真撮影だけで終わらせないこと。

3)買い物から記憶へ

 何を記憶に残せるか?が大事なので、「記憶のお土産」として持って帰ってもらいたいことを、その土地や人の無形のストーリーや体験や交流を通じて伝えること。

4)物見遊山から没入へ

 大型バスから地域を部外者として覗き見る表面的な観光ではなく、地域の中にどっぷりと入り込んだ心の交流が重視されるので、人と人の交流を産む機会を体験を通じて提供すること。

それぞれ一言で言うと「挑戦」と「学び」と「交流」です。
レベル調整は必要ですが、それぞれにおいて、しっかり本人に試練を与えることが大事です。

言い換えると「体」と「頭」と「心」です。

「体」と「頭」と「心」を使った「体験」こそが上質な体験になるのです。

体は日本の資源資源を活かしたアウトドア体験で実現できます。頭は日本の歴史、文化、伝統工芸、伝統芸能、日本人の精神性などを使います。心は民泊や郷土料理体験、地域住民との交流を通じて作り出します。

これらを組み合わせた体験を今後の日本のインバウンド産業で提供することこそが望まれています。

欧米に限らず、東アジアや日本でも社会が成熟してくると、この価値観は浸透してくるでしょう。旅に求めることはこのように必ず変わってきます。

日本におけるインバウンドの課題はまだたくさんありますが、それらは、また追ってお話ししたいと思います。

【Ehime Kurushima-kaikyo-ohashi Bridges, from Mt. Kiro】【Gunma Carp Streamers, Akaya Lake】【Yamaguchi Farmer in Higashi-ushirobata Rice Terrace】
【Hiroshima Streetscape of Yutakamachi-Mitarai】【Niigata Wakabayashi-tei House】©経済産業省、【表示4.0 国際】ライセンス https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/