アレックス・カー氏との3日間

敬愛するアレックスカー氏と今回3日間過ごした。彼の著書は世界中で読まれているし、彼のTEDトークは動画で世界中に配信されているので、海外にも広く知られる人物だ。

足立美術館にも松江城にも出雲大社にも行かない今回の島根東部のトライアルツアーは、日本学、東洋学の専門家であり、「日本景観論」「ニッポン巡礼」などの著者であるそのアレックス・カー氏をお招きして催行した。彼の祖谷における功績はすばらしく、田舎ツーリズム、古民家再生の第一人者と言えるだろう。彼が徳島県の祖谷に魅了され、朽ち果てようとしていた古民家を再生して移り住み、海外に発信した。それが契機となる海外からの旅行者が訪れるようになり、それを聞きつけた日本人が後に続いた。今は祖谷は世界中に知れ渡っている。

知られざる秘境の素材(資源)を海外顧客にもマッチするようにアレンジし、よい評価を獲得し、時間をかけて実績を作り、それに日本人も後から付いて来たという事例を、国内で先んじて作った先駆者である。それは私たちハートランドがやりたいことと見事に一致する。田舎を題材にした体験プログラムを海外の価値観に訴求し、そこで実績を作り、その価値観を逆輸入する形で、次に日本人に広がっていくという手法である。「自分のふるさとは海外でも評価されている」という事実は、地域に自信と誇りを持つきっかけになると考えいる。そうすれば地元民は、地域の価値に気づき、伝統を大切にするようになり、次世代にそれを継承するようになるだろう。それがハートランドが実現したい社会像だ。

世界に開かれた地域社会がそれで形作られていく訳である。

今回のトライアルツアーは、人に会い、地域の課題に触れつつ、日本のインバウンドツーリズムや文化継承などのディスカッションをしながら行程を進むツアーとした。

テーマはいわば「サステナビリティ」だ。陳腐な言葉ではあるが、この定義が一番いいだろうと当社のアメリカ人スタッフに言われ、納得し、その言葉をテーマとした。「日本人のサステナブル・スピリッツ」を伝え、そこに意味や意義を感じてもらうことをミッションとした。

特に日本の空き家の問題を題材として、日本建築に宿る日本人の住宅に対する考え方や、職人の技術、自然と共生する価値観、部材の由来やほどよく採る姿勢などを伝えることを心がけた。


アレックス・カー氏の日本文化への造詣の深さは国内随一。日本の社会を風刺したTEDトークでも有名な人だ。


インバウンドツーリズムや日本学、東洋学、建築、芸術、日本の社会課題、ガイドのあり方など、いろんなテーマでディスカッションしながら行程を進んだ。そして何度も意気投合する機会に恵まれた。


自分の一番の収穫はそういう共通体験を経て、アレックスさんとお近づきになれたことはもちろんだが、日本人は長きに渡って受け継がれた来た日本人の「美意識」を失っている事に気付けた事だ。それは今までなかなか言語化出来なかった定義だった。


異文化に生まれ育ったにもかかわらず日本の伝統を愛する外国人と接するごとに感じて来た日本人に対する課題感、そして自分が次世代に残していきたいものは日本人の「美意識」なのではないか、という事に気付けて、それがアレックスさんとの会話で、妙に腹落ちしたのである。


であれば、もののあはれ、はかなさ、侘び寂び、そうした日本の芸術を愛でる感性が世の中から消えているというで、それをどうやって消さずに継承していくかが課題となる。


歌舞伎、神楽、人形浄瑠璃、浮世絵、陶芸、着物、武道、日本庭園、民謡など、現代日本人はこうした伝統に興味をどんどん失っている。


杉の人口林は本来の山の美しさを台無しにし、自然は無駄にコンクリで開発され景観を壊し、ファーストファッション型の現代の住宅建築の量産は街並みを汚している。


一方で、岩や山、岬の先など、なぜここに鳥居があるのだろう?という事が多いが、日本人はそこに神秘的な美を感じていたからだと思えば、とてもしっくり来る。


そして自分がアートの目を失っていたことに気づく。


現代日本人は、この和の美意識、アートの目を亡くしてしまっており、それに気づいていないのだ。


不足の美、未完成の美、余白の美、これらは西洋の美意識とは違っているので、新しい価値観をインストールする事が出来、西洋人の旅行者の体験価値を上げ、さらに人生を豊かに感じさせる。

だからこそわざわざ日本に来てそれを愛でる価値がある。足りない事を美しいと感じる精神性を日本人も持てば、違う世界が見えてくる。街をアートの目線で見回すといろいろとアラが見えてくる。


小泉八雲のこころ(オープンマインド)は、人間も動物も自然も皆が平等の立場である。偏見を無くし、開かれた心を持つということ。ヘビもカエルも人間も同じ生き物で平等、どちらが偉いということはない。こうした精神は、やけに今回のテーマであるサステナビリティにも通じた。


またアレックス氏が53年ぶりに訪れた小泉八雲の記念館は旅の締めくくりにふさわしかった。

アレックス氏が16歳の時に訪れ、同じ外国人の立場として深く感動したそうだ。そして時を経て彼自身が現代のラフカディオ・ハーン(小泉八雲)となった。共に日本の美を愛し、理解し、自らが世界との架け橋となっている。


仕事がら多くの外国人が友人にいるが、外国人の日本に対する客観的な洞察や評価、そして日本に対する偏愛は日本人として、うれしくなることである。


私たちの役割は、そうした美意識を次世代に受け継ぐ事である。


「芸術は宗教の母なり」という言葉があるそうだ。


美は信仰を産み、信仰が形となって芸術となる。


ものにアートを感じるこころを養いたい。

地域のアイデンティティが評価され、世代を超えて世界中の人々と分かち合える社会を作りたい。

ハートランドはその役割を担っている。

【Ehime Kurushima-kaikyo-ohashi Bridges, from Mt. Kiro】【Gunma Carp Streamers, Akaya Lake】【Yamaguchi Farmer in Higashi-ushirobata Rice Terrace】
【Hiroshima Streetscape of Yutakamachi-Mitarai】【Niigata Wakabayashi-tei House】©経済産業省、【表示4.0 国際】ライセンス https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/