どんな犠牲を払って Part 2
【創業10周年企画 事業編】2017年1月〜2024年5月
2017年1月から旅行業を始めるための準備に入りました。月々の生活費を稼ぐための仕事と並行しながら、旅行商品を作る活動をしました。結果的には1年かけて4つのウォーキングツアーを作りました。
当時震災からの復興を遂げようとしていた阿蘇、ふるさとの萩・津和野、知人がいた青森の津軽・下北、そして世界遺産でもある熊野古道伊勢路です。商品ができたはいいですが、どうやって売ったらいいのか、旅行業界の経験がまったくない私にはわかりませんでした。そんな折、豪州、ニュージーランド、ドイツ、イギリスに販路開拓に出向くことにしました。現地でセミナーを開催し、現地のエージェント向けにツアー商品を紹介しました。私の英語はビジネスレベルではありません。ですので写真中心で現地に集まってくれた方々に説明をしました。聴衆の反応としては、きょとんとしていたと思います。プレゼンが受けたのかどうかについては正直よくわかりませんでした。ですが幸いなことに、ニュージーランドで行ったセミナーに参加していたエージェントから我々ハートランド・ジャパンの話を聞いたという一般消費者の女性から、2018年に問い合わせが来て、その10月に私が作った萩・津和野の商品を買ってくれました。それが私たちの作ったパッケージツアーの最初のお客様でした。その商品には観光地でもなんでもない須佐や江崎という漁村も入れています。値付けは1日1人当たり5万くらいだったので、1週間のツアーだったので60歳間近のカップルに約70万円で日本の田舎を楽しんでいただけました。その後、同じツアーはオーストラリアの医者夫婦にも買ってもらうことができ、弊社の定番の商品となりました。この出来事は、自分が思い描いたことは間違っていなかったと確信を持つことができた瞬間となりました。
しかし、事業として成立させるには、もっともっと販売しないといけません。毎月毎月数百万円の利益を出さなければ、人件費は賄えません。もっと売る力をつけなければならないわけです。そこで考えたのがFAMツアーの実施です。ネットで見た記事か何かでFAMという販促策があることを知りました。当時は何も知りませんでしたので、FAMというものがあるらしいぞ、じゃあ、やってみるか。それには多額の費用がかかるな。どうしよう。じゃあ売るためにはやるしかないな、という程度の認識です。早速、欧米の旅行会社を招いてFAMを2018-2019年に3回も実施しました。行政とコラボして予算を引いて実施するなどということは当時まったく考えていませんでしたので、全て自腹です。自分たちなりに開拓していた海外ネットワークを駆使して、イギリスやオーストラリア、ニュージーランド、アメリカなどから、メディアや旅行会社を招待しました。1回につき300万程度かかるFAMツアーを、阿蘇や萩・津和野、島根で実施しました。創業支援金の300万円の後に追加で公庫から借入していた約1000万円の資金は全てFAMの費用として吹っ飛んでしまいました。結果は? すぐに商品が売れるわけもなく、かなり痛い結末となりました。
その後、FAMを通じてではなく、地道にコンタクトを続けていた海外の旅行会社との取引が徐々に成約に至るようになってきました。テーラーメイド型(カスタムツアーの対応)の仕事が増えてきていました。その当時で4,000万円くらいの売上は立つようになっていました。しかし「さて、これから成長だ」というタイミングだった2020年1月にコロナに見舞われました。2019年に萩・津和野を訪れてくれていたオーストラリア人のリピーターの医者カップルは、弊社のハートランド・ジャパンのサービスをとても気に入ってくれ、2度目の予約を東北地方(福島や平泉、遠野、宮古など)で2020年に予定してくれていましたが、それもキャンセルになってしまいました。暗黒の時代の始まりでした。
2020年以降の3年間は、キツかったです。コロナは旅行業界には壊滅的な打撃で、我々もどうやって食っていくか深刻な課題に向き合わなくてはならなくなりました。コロナ禍での事業を心配して知人から「大丈夫ですか?」と言われるたびに「大丈夫なわけないだろ?」と腹が立ったものです(笑)。
幸いにも、その危機を救ったのは、その少し前からやっていた行政コンサル業でした。2018年の阿蘇や島根を皮切りに、2019年は岩手県の宮古、熊本県の阿蘇、山口県の宇部、三重県の熊野古道伊勢路などの行政案件が獲れていて、その土台ができていました。2020年以降は、旅行業が立ち行かない以上、会社を死なせないために行政案件を積極的に獲りに行くしかありません。その後の3年間はいくつも企画書を書いては応札する日々に追われました。行政案件の勝率は、当初20%くらいだったのですが、3年目には60%を超えるくらいになっていました。我々の強みを活かせて勝てる案件を吟味し、行政の担当者が評価で重視するポイントを想定した企画書作りが奏功しました。もともと行政コンサルの業界で経験を積んでいたスタッフが事業の懐刀となり、年間で1億円近い売上を作れるようになっていました。
もともと弊社のハートランド・ジャパンはウォーキングツアーを基調としていたため、欧米系をターゲットに、アクティブで、知的好奇心が旺盛な層にマッチします。北海道でAT(アドベンチャーツーリズム)を軸としたデスティネーションづくりが勃興しており、かつJNTOなど国を上げての取り組みがなされるようになっていました。そのアドベンチャーツーリズムの受け皿作りの行政案件に我々の持つ欧米系インバウンドのノウハウは親和性がありました。またATTA(Adventure Travel Trade Association)というアメリカのアドベンチャートラベルの団体にも2018から所属して、加盟旅行会社やATTAの組織の本部とはよくやりとりをしていましたので、勝手知ったるアドベンチャーツーリズムという感じでした。コロナ禍の行政案件としてAT(Adventure Tourism, Adventure Travel)案件がたくさん公示されたというのは、運命だったのかもしれません。長野を皮切りに、八ヶ岳や山陰、せとうち、熊野古道などの案件を落札することができ、私たちはそれでなんとか食い繋ぐことができました。今ではそれが発展して、サステナブルツーリズム(ST)やコミュニティベースドツーリズム(CBT)、グリーンツーリズム(GT)、ワーケーション、GSTCやJSTS-Dのアセスメント事業やガイド育成事業、観光防災関連の事業にも広がり、地方自治体や観光協会、DMOからも声がかかるようになりました。今では、弊社の地域に入り込んで地元の方々と信頼関係を築く努力を厭わない点や、行政向けの書類作成ノウハウ、出口(海外への販路)としてハートランド・ジャパンを持っており、販売実績につなげられる点が評価され重宝されています。
その後、2022年の10月にコロナ禍による入国制限が撤廃されました。他社に比べると弊社の初速は遅かったのですが、2023年の5月になってようやく弊社も大忙しになりました。それまでチョロチョロだった問い合わせが急激に爆増し、チームは火の車状態に。現在、このトラベルチームだけでスタッフ総勢25名を超えていますが、今ではそれでも手が足りない状態となっています。
お金を借りていた父からは、お前は騙されとるだけなんじゃないんか? 田舎に来たい外国人旅行者なんかおらんじゃろう? もうやめたらどうか?などと言われましたが、10年間数々の犠牲を払って、ようやくここまで来れたか、というのが今の感慨です。
弊社の取り扱い実績:2023年6月-2024年5月期
取り扱い国
1位:デンマーク
2位:アメリカ
3位:オーストラリア
4位:ドイツ
5位:ニュージーランド
6位:スイス
7位:カナダ
延べ宿泊者数(取り扱い人数x宿泊数)
134,829人泊(前年比+7倍) *国全体の0.12%に相当
ツアーの平均グループ単価
2,333,163円(前年比+3倍)
平均グループ人数
3.84人(前年比-0.92倍)
平均宿泊数
12泊(前年比+1.7倍)
平均旅行費用
758,981円/人(前年比+3倍)
平均人日単価
59,977円/人日(前年比+1.8倍)
うち地方部宿泊日数
4泊 *全滞在日数の33.3%に相当(前年比+2.7倍)
私たちのような小規模のベンチャー企業が、当時難しいと思われた、欧米豪をターゲットにすること、そして観光の定番ではない地方に誘客すること、をテーマとして挑戦し続けてきた結果が、今このように花開いています。国全体の0.12%の外国人のべ宿泊者数をこのハートランド・ジャパンがやっているという事実を目の当たりにすると、それはそれは感慨深いものがあります。次はこの10倍をやって、まずは1%のシェアを目指したいと思っています。そうすれば地域の方々にも、世界的にも日本の田舎は魅力的で価値があるということを証明することができる気がします。