アドベンチャートラベル、地域の受入体制のあり方

ATをやっておけば欧米の対応は万全
 AT(アドベンチャートラベル)の意義は、その価値観を知っておけば広く欧米に対応可能である点にあります。ATは今時の欧米人の志向性が具体的になった表された価値観の集合体の一つの例なのです。ATは勉強の科目ではありません。あくまでも欧米系の「旅に対する価値観」の一例ということです。難しく考える必要はないのですが、これまで東アジアのマスツーリズム(バス観光やクルーズ)をターゲットとしてバルクで稼いできた大量消費型の旅行市場とは一線を画す集合体であるということは前提として知っておくとよいでしょう。
 2003年の観光立国宣言以降、これまで日本のインバウンドツーリズムが東アジアを中心に発展してきてため、マス観光の延長線上でインバウンドは語られてきました。しかし、20年を経た今後は ①欧米諸国をターゲットにすること ②ゴールデンルートからの分散させることが命題になっています。
その点において欧米人は、ゴールデンルートにおける有名観光地は「ツーリスティ」(観光地化されてしまっているので、わざわざ行く価値はない)なので、もっと日本通が行くところに行きたい、という価値観を持っています。
 こういったAT市場≒欧米市場の価値観を我々地域が学ぶことは意義があります。これまでマス観光では脚光を浴びることがなかった地域の資源を活かし誘客に役立てられるからです。
決して写真映えするわけではない地味な石像は日本の宗教芸術を表す神秘に。農村漁村の日本人の暮らしぶりは日本人の伝統的な暮らしぶりを代弁するオーセンティシティに。峯道ロングトレイルは中山道や熊野古道などでオーバーツーリズムにあえぐハイカーたちの新たな選択肢となります。

AT対応ができれば、アジア、日本人にも応用できる
 AT顧客の志向性は、ST(サステナブルツーリズム)やCBT(コミュニティベースドツーリズム)など、ミレニアル世代にも通用します。またアジア人は西洋の価値観を流行の先端として捉える傾向があります。そういう意味で、AT客に対応する力を地域が身につけることは、ちょっと先を行っている欧米人に対応できる力を身につけることになり、それは後からやってくる東アジア人や日本人にも応用が効くものなのです。ですのでATの受け入れ環境を整備することは実に意味があることです。

ATの受け入れは今ある資源で対応可能
 ついつい外国人や都会の日本人が地域が来るとなると特別なことをしなければと考えがちです。しかし、口を揃えて言われることは、「ありのままが一番いい」ということです。これは洋の東西を問いません。よって、受け入れについても特別な対応力を身につけよう、というスタンスではなく、「今ある資源をどう活かせるか」という視点に立って受け入れ環境を整えます。英語の対応やアクティビティに対応できないという課題が地域には存在しますが、それを「セット」で解決するということは一考の余地があります。通訳役のスルーガイドと日本語のローカルガイドのセット、通訳役のスルーガイドと地域のアクティビティガイドのセット。こうした人材の組み合わせを行うことで、足りない点を補うことはできます。よって、今ある地域の資源でAT顧客に対応できる体制が整うのです。さらにはそれができれば、日本人でもアジア人でも誰が来ても対応できます。

地域の課題を直視した方法を模索
 ツアー催行にあたって地域にはさまざまな課題があります。よその地域を妬んだり、ないものねだりをしたり、外部の人に頼ったりするのではなく、今、ある地域の資源をいかに活かすかに重点を置きます。
地域には、
・英語人材がいない
・ボランティアガイドはいるがプロフェッショナルガイドはいない
・そもそも外国人の対応に慣れていない
・地域の歴史が趣味なだけなので、金銭を収受しての旅行会社から依頼を受けるようなプロフェッショナルガイドにはそもそもなりたくないという人が多い
・歴史・文化系のガイドはいるが、ウォーキングやトレッキングなどのアクティビティに対応できるガイドがいない
・ガイド資格や認定の制度に翻弄されるがあまり、旅行者が求めるガイドのあり方とかけ離れてしまっている
・特定の人気ガイドに仕事が集中し、なかなかガイドの裾野が広がらない
・ガイドの高齢化が進み若手が育っていない
・ガイドでは生計が立てられないので、担い手がいない
・ガイドがしゃべる内容が難しすぎてついていけない。そして実際には誰も理解できていない
・そもそもガイドがしゃべる内容に関心を持つ顧客が少ない。そして顧客は旅行でガイドを雇わない
・・・などといった多くの課題があります。
地域自体がその課題に気づき、その課題を関係者一同で共有した上で、では「今あるリソースで何ができるか?」(十分に今あるリソースで大丈夫!)ということに力点を置き、新しく実効性がある地域の受け入れ体制を構築することに力を注ぎます。

地域インバウンドにおけるガイド体制のあり方
 これまでインバウンド顧客のガイドは、一人のスルーガイドが10-14日間の旅程の全てをエスコートし、通訳もガイディング、旅程管理も行うスタイルが一般的でした。旅行会社は関係者が多ければ多いほどコストがかさむため、一人のスルーガイドに仕事を任せがちです。
 インバウンド市場はこれまでGRを中心に、そして東アジア圏からの来訪者によって発展してきました。これまでの20年は東京、富士山、京都、広島といった定番のゴールデンルートであれば、それでOKでした。
 しかし、今、旅行者たちはもっと「その先」を目指しています。訪日者は東アジア圏だけでなく欧米圏にも肥広がり、かつ、行き先も広島から4時間圏内である四国、島根などの山陰、九州もその足を伸ばす対象となってきています。また欧米人は「体験」に重き置きます。彼らは旅慣れていて、かつ、ハイキングや文化体験、交流を重視しますので、AT(アドベンチャートラベル)の価値観や受け入れの方法論が活用できます。
 よって、今、地域がその受け皿(受け入れ体制)を用意しておくことは非常に有用です。変化に富んだトレッキングフィールド、中山間地域や離島の暮らしぶりが微笑ましさなどが、脚光をあびるタイミングに来ているので、あとはその運用面をカバーできる体制を作ることが求めれているのです。
 こうした地方をフィールドとしたツアー催行をどう実現するか、そして安定的に多くのツアーをまわすについては、一人のスルーガイドに任せるのは困難です。一人のガイドが日本全国をカバーすることはできないため、新しい手法が必要となります。
 今後、地域インバウンドにおける現実的なツアー催行の方法論としては、「スルーガイドとローカルガイドのセット」での運用に目を向けるべきです。
 この場合、スルーガイドは、グループ全体のエスコート、時間管理、ローカルガイドの通訳、ファシリテーションに徹し、ローカルガイドが、地元のインタープリター(地域と旅行者の媒介役)として立ち回り、より地域への没入感を感じさせる方法となります。


 この方法論は、以下のメリットがあります。

・旅行者視点:観光地化、商業化された物見遊山の「観光」ではない田舎の暮らしの中に入り混むことができる
・ローカルガイド視点:英語がしゃべれなくても、スルーガイドが通訳してくれるので安心(日本語ガイドの人材を活かせる)
・スルーガイド視点:地域固有の歴史や分化、地元に残る逸話など、地域の本物らしさは地元ガイドには敵わないので、そのディープな地元ガイドの部分を自分の役割から切り離すことができる
・社会視点:地元のリソースを潤沢に活用することができ、外貨を地域が獲得することにもつながる

いわば、四方よしのスキームです。

 このスキームを、旅行会社である当社は、島根や山口、三重(熊野古道)、長野などあらゆる地域で実践し、評価されています。この「スルーガイド+ローカルガイド」。「スルーガイド+アクティビティガイド」の「セット」のスキームを今回全国でも実現すべく、受け皿を構築するガイド育成プログラムとして提供していきたいと考えています。
 なお、スルーガイドは通常旅行会社側が自前で手配するので地元側の心配はいりません。また特定の旅行会社の専売としてではなく、このスキームが広く旅行会社や個人客から活用されるように運用することができるようにします。

ない、ATマーケットにおいては、以下の基礎知識を持っておくといいでしょう。

1)ATマーケットの主戦場はソフトアドベンチャー
 ATの志向性を持つ顧客が日本に期待するのは、「歴史・文化xソフトなアクティビティ」です。ソフトなアクティビティとは、ウォーキングやハイキング、サイクリングなどのソフトアドベンチャー(ライトアドベンチャー)。必ずしもハードコアなアドベンチャーだけではありません。ウォーキングなら3-5km歩くこと、城下町をそぞろ歩くこと、ハイキングコースを2-3時間歩くこともアドベンチャーとなります。特に欧米のAT顧客が日本(東洋)に期待するのは日本らしさであり、それは「文化」「歴史」「精神性」です。そこにソフトなアウトドア体験(ウォーキング)を組み合わせた旅行形態が日本の地域には求められています。

2)アウトドアだけがATではない
 AT顧客は知的好奇心が旺盛です。地域の暮らしの中に没入して、そのならわしを学ぶこと、一緒に郷土料理を共同調理をすること、地域の歴史や文化を学ぶこと、伝統芸能を一緒になって楽しむこと、伝統工芸を習うこと、地域の名物おじさんの話を聞くことなどもATの領域に入ります。そこには、地域に貢献することや、地域を学び取ることにより満足感を得ることや、のちの自分の人生を豊かることができる精神性を多文化を取り入れることによって養うことなどの目的もあります。近年は世界遺産が注目されていますが、日本遺産にはこうした日本の歴史や精神文化を引き継ぐべき遺産として列挙されています。世界遺産だけでなく、日本遺産も、というのが弊社の考える新しいインバウンドの形です。

【Ehime Kurushima-kaikyo-ohashi Bridges, from Mt. Kiro】【Gunma Carp Streamers, Akaya Lake】【Yamaguchi Farmer in Higashi-ushirobata Rice Terrace】
【Hiroshima Streetscape of Yutakamachi-Mitarai】【Niigata Wakabayashi-tei House】©経済産業省、【表示4.0 国際】ライセンス https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/