どんな犠牲を払って、何と闘っているのか? Vol.4

何と闘っているのか Part 2
【創業10周年企画 地域インバウンド】未来

 私たちが加盟しているATTA(Adventure Trade Association)には、2018年からメンバーになりました。日本では北海道の視察団が2016年のATWS(Adventure Travel World Summit)のアラスカ大会に視察に行ったことがきっかけとなり、日本の北海道でもATWSを開催し、北海道を日本のアドベンチャートラベルの一大メッカとして育て、北海道の雄大な自然や固有の先住民族、本州とは違った開拓の歴史資源などを活用した観光施策が検討されるようになりました。
 私たちとATTAとの出会いは2018年のITBベルリンでした。私が作った田舎のウォーキングツアーをどうやって売ったらいいかわからなかったのですが、ATTAのブースにはバックパックを背負ってかっこよく山を登ったり、アイスクライミングをしたりする人の写真ポスターがたくさん掲示されていました。それでウォーキングツアーの市場はここにあることを察することができました。帰国後早速ATTAのメンバーになりました。そこからそのコミュニティの中で海外のエージェントとのやりとりを開始し、現在の商流を築くことができています。

 ATTAだけではありません。いろんな海外の商談会に出かけそこで作った人脈が活きて今のハートランド・ジャパンがあります。ちなみに海外には、「私たちはアドベンチャーツールズムの会社です」と名乗る人はいません。ATTAが定義・提唱しているようなことは、ATTAのコミュニティでメンバー同士でコミュニケーションをとるための共通言語として参考にしている程度です。ATTAの運営者自体が小さなブティック型の旅行会社やエージェントの集まりですし、同じ価値観を持つAT体験の形態は、欧米の価値観を広く拾い上げて定義されているだけなのです。だから彼らにとってATTAの提唱することは広く欧米の価値観が具現化されたものであり、その理念は彼らにとっては、より自然で当たり前の普通なものなのです。これまで日本のインバウンドが突き進んできた東アジア偏重、入込数偏重だった質より数を狙え的な方向性に一石を投じるのがATなのです。また、欧米対応の方法論がATTAの提唱する標準(ガイドライン)に示されている点は日本のオペレーターは大いに学ぶ余地があると思います。

 ATTAの存在意義はATの普及と振興です。業界活性化のためにATTAというコミュニティがあるわけですから、それを上手に活用することに加盟の意味があります。ATTA自身も言っています。「私たちが定義している標準は参考にしてくれればそれでいいんです。国々よってその実施形態は違っていていいんです。それがATなんです」と。そういう意味では、欧米の加盟会社はATTAをうまく活用しているのでしょう。ATTAは同じ価値観の持ち主の集まりなので、話がとにかく早いです。またお互いに送客をし合っても、価値観が同じだから間違いないのです。ハートランド・ジャパンもそのあたりが通じてか、欧米から広く送客をしてもらっています。それはATTA加盟会社からのこともあれば、そうでないこともあります。ちなみにATTAに加盟している会社は北米の会社がほとんどです。ヨーロッパやオセアニアの会社はまだ少ないです。ATTAも世界ではまだ発展の途上にあるということになります。地方に誘客する手法としてATはあっていいですし、ATTAは重要なチャネルであることは間違いないと我々も思っていますが、目的と手段を間違えない事が大事だと思います。ATTAをテキストブック的に学んでコピーすることが目的ではなく、ATTAのコミュニティを活用して、いかに地域に誘客するか、それが目的だからです。

 ちなみに「よくどうやってそんなに海外に開拓できたの?」というのはよく受ける質問ですが、それにはいつも「商談会に出かけて営業すること」と応えています。販路開拓とは「地道に営業する」こと以外なにもなく、それが鉄則であることは洋の東西を問わず同じであることをここで改めてお伝えしておきたいと思います。

 2023年9月、北海道でATWSが開催されました。そこで日頃オンラインでしか繋がっていない海外のエージェントたちとたくさんのハグをして、たくさんの商談をしました。中には数年前にFAMで島根や山口の田舎に来てウォーキングをしてくれたジャーナリストやエージェントもたくさんいて、その再会は実に楽しいものでした。
 ATWS 2023北海道のDOA(Day of Adventure)に参加したのですが、残念ながら私が選んだMTB(マウンテンバイク)のツアーは大きく期待を裏切るものでした。MTBコースの選定、ガイディング、ツアー全体の構成など、そのいずれもが「ただMTBをする」(しかも砂利道とアスファルト道で)ということに終始していて、あまり付加価値(わざわざそこでそれをする理由)はありませんでした。自国でしこたまMTBに勤しんでいる人たちがATWSでわざわざ遠い日本に海外から来て行うアクティビティとしては残念な内容でした。聞くと、これまで修学旅行の子どもたち向けに日頃はサービスを提供しているということが後でわかったのですが、もしも本気で欧米のマウンテンバイクの愛好家を招こうという話なのであれば、従来のやり方を考え直す必要があります。また、ATはもとより、欧米系インバウンドの誘客ももっと工夫しなければ難しいと思いました。北海道のようなウィルダネスな手付かずの自然は欧米豪にもあるからです。

 基本的に欧米系のAT顧客が日本に求めるのは、歴史や文化です。ネイチャー資源については、もしそれが欧米にもあるようなものであれば、残酷ではありますが、さほど興味を示しません。自国と比べてしまうのです。ATWSに参加していたカナダ人(ATの世界では有名な人物)は言っていました。「このようなもの(北海道にあるような自然)はカナダにもある。私たちが日本に求めるのは歴史や文化」と。つまり、自国にあるものを海外に行ってまでわざわざは求めないのです。欧米顧客を地域に誘客するには、「その土地ならではの自国にはないもの」が有効なのです。

 ですので地域の資源をどこの誰に訴求するのか、については世界と比べてみた上で、その強みを発揮していく必要があるということになります。世界と比べてどうなのか? 何が違うのか? どこに固有性があるのか? どこにわざわざ飛行機に13時間も乗ってそこに行く価値があるのか? それは海外にはないものなのか?…などです。北海道がATのフィールドとして価値がないということは全くありません。ただ誰をターゲットにするのか? そしてどこをお持ち帰りポイントとして楽しんでもらうのか?を考えた上で、独自性を打ち出してく必要があるということです。コースの変化、距離、高低差、必要とされるスキル、必要とされる体力、ストーリー性、スタートとゴールの設定、盛り上げポイントの設定、ご褒美など…工夫できるポイントはたくさんあります。

 MTBなら長野や伊豆には古道を活用したトレイルがあります。コースは変化もあって、昔の日本人によって炭焼きや林業で使われていたというストーリーもあります。こうした資源がまだまだ世界に対しては発掘されていません。だったら私たちが発掘し、世界に知ってもらい、価値観が通じ合うアドベンチャートラベラーに来てもらいたいし、それは大きなポテンシャルになると思っています。日本のアドベンチャートラベルのデスティネーションはまだ定番(先の中山道や熊野古道)に閉じてしまっているという点が、私たちが今闘っているテーマです。今後の国内フィールドを活用した海外市場の開拓に励んでいきたいと思っています。


 先にも挙げた古道歩きで行くと、中山道がナンバー1です。馬籠から妻籠の約2時間半のコースを歩くことが欧米系ハイカーにとってのアドベンチャー(ライトなアドベンチャー)となっています。次に指名買いが来るのは熊野古道です。中辺路ルートがもっとも歩きやすく距離も短いため多くのハイカーに歩かれています。また熊野古道(田辺市)がスペインのサンティアゴとはプロモーション協定を結び共通のご朱印帳(スタンプ帳)も発行するなどして誘客に成功しているのです。今、このトップ2の日本の古道トレイルもオーバーツーリズムが叫ばれ始めています。宿が取れないのです。バスも満席です。温泉もごった返しています。田舎に海外客が来てくれるのはうれしいですが、結局、ゴールデンルートと同じで、一極集中してしまう。これが私たちがこれから取り組むべき課題だと思っています。代わりの選択肢を提供すること、それが私たちが今取り組んでいることです。
 中山道は木曽路(Kiso Valley)として有名ですが、それなら周辺には伊那という地域があり木曽とは初期中山道で結ばれてますし、また飛騨街道という木曽から飛騨高山に抜けるオルタナティブなルートもあります。熊野古道なら伊勢路もあります。伊勢路はもっとも石畳の距離が長く、山も海も川もある最も美しいルートだと思っていますが、中辺地ルートの人気が先行し、伊勢路はほとんど知られていません。こうした古道の資源を固定の定番ルートだけに集中させない取り組みを私たちは今スタートしています。
 また、海外のエージェントのリテラシーを高めることが急務と考えています。海外の日本旅行に対するリテラシーは驚くほど低いのです。だから、東京、富士山、京都、大阪+広島などが鉄板。ちょっとしたアドベンチャーとして、飛騨高山、白川郷、金沢、直島が提供されているくらいです。エージェントを啓蒙し、市場を創っていくこと。これが我々がやらなければならないことです。逆に言うと、これまでの日本のインバウンドは大型バス観光やクルーズなどのバルク型(ホールセラー型)のビジネスモデルで、アジア顧客を中心に論じられてきたのですが、それは今完全に変わってきています。欧米顧客、地方、リピーター、精神的満足感…こんなテーマが次に世論として高まってくることを私は期待しています。弊社では今年から海外向けのウェビナーを開始しています。海外のエージェント向けの日本旅行のリテラシーを高めてもらうためのオンラインセミナーです。参加者は50名(30社)を超えるときもあります。こうした地道な啓蒙活動が地方分散型のインバウンド市場を創出するためには必要だと考えています。
 登山人口は日本の総人口の5%と言われています。ハイキングの人口であれば10%くらいにはなるでしょうか。それにしても少ないと思います。サイクリングの人口(この場合ロードバイク)は約1%と言われています。さらにMTB(マウンテンバイク人口)は、さらにその1割の0.1%と言われています。とてもニッチなマーケットです。リバーカヤックやリバートレッキング、サーフィン、SUPなどのウォーターアクティビティの人口も決して多くはありません。こうしたアドベンチャー型の顧客をどう日本で受け入れていくのか? 特定の分野だけに精通した人でなければ、そのガイドの仕事は務まりません。安全対策も必要です。しかし、アウトドアの愛好家は常に新しいコースを探しているので、日本もそのフィールドには十分になり得ます。今、こうした特定分野のアドベンチャーツアーのプランが求められています。スキーやスノーボードはすでにニセコや白馬、野沢温泉では活況を呈していますが、それ以外のアウトドアアクティビティでも、日本がいいフィールドとして評価されるようになれば、それはそれでインパクトの大きいものになるのではないでしょうか。そのためには、しっかりとした受け皿作り(人材、コース、上級者向けのバックカントリーツアー、ガイドやサポートカーなどアテンドできる体制づくり、観光と組み合わせたプランづくり)が必要でしょう。そうした整備を我々としては地域のサプライヤーと協働しながら、行って行きたいと考えています。
 次に伝統芸能の課題です。地域には地歌舞伎や人形浄瑠璃、神楽などの芸能がありますが、それらの資源があまり活用されていない点です。日本の神事、お祭りは年に1回しか基本的にはありません。だからそれ以外のシーズンには楽しむことができません。だから神事の舞手も年間の大半は何もしておらず、我々市民はそれを楽しむことができません。もちろん旅行プランに入れて提案することもできません。
 そんな中で一つのいいモデルとなるのは島根県の石見神楽です。温泉津(ゆのつ)という温泉街では毎週土曜日の夜に夜神楽を神社で観ることができます。ですので弊社ではその日を狙ってツアーを組んでいます。それはとても人気のキラーコンテンツとなっています。言葉も通訳もなくても十分に楽しめるダイナミックな演舞となっています。しかし、ツアーの行程の中では、なかなかピンポイントで旅程を合わせることが難しいこともあるでしょう。そんな時、私たちは、神楽の「練習場」を舞台にします。地元の舞手が夜な夜なジャージ姿で練習している公民館に出向き、そこで神楽の日常の練習を見させていただき、衣装を触ったり、舞手と対話する機会を作っています。もちろん費用はお支払いしています。旅行者にとって、地域の伝統芸能の舞手たちの練習場に行かせてもらえるというのはとても特別感があります。絶対に自分たちでは予約はできません。また地域の舞手たちにとっては、見てもらえる機会も増えますし、経済的な援助もツアーによって受けられる、モチベーションの向上にもつながるなど、双方にメリットがあるスキームです。こうした取り組みを各地域でできるようになれば、地域の伝統芸能を幅広に楽しめる機会が増えると考えています。
 また津和野町は秀逸です。地元の神楽団(社中)をプライベートで予約することができ、しかも、もし15人以上お客さんを集めた場合、町が費用の半分を持ってくれるのです。しかも、もし石見神楽の上演を予約した場合は、地元観光協会や町が「今日はどこそこで神楽観れるからよかったら行ってみてください」と旅館に電話をしてくれて、集客の手伝いまでしてくれるのです。ですので15人の聴衆を集めることは容易なことになります。15人の聴衆を集めやすく、さらに5万円のうちの半分を町が負担してくれるので、実質2.5万円で津和野ではプライベートの神楽の公演を予約して観ることができるのです。弊社ではその日に泊まる旅館の宴会場で石見神楽の上演をしてもらっていて、毎回好評を博しています。こうした郷土芸能を活用するモデルがもっと地域で活用されていけば、伝統の継承につながると思いますし、そうすべきだと考えています。


 私たちハートランド・ジャパンはアドベンチャートラベルの志向性を持った顧客と相性がいいです。普通とはちょっと違った行き先に行きたい。バス観光やクルーズなど大人数で動くことは好きではない。商業化されて混雑しているツーリスティな場所(ザ観光地)には行きたくない。観光公害には加担したくない。移動するなら歩きたい。自然を感じたい。もっと日本の田舎に行きたい。日本の伝統を学びたい。日本の田舎の暮らしぶりを感じたい、秘境になるほど燃える、多少危険を伴う方がスリルも達成感があっていい、などといった志向性を持った顧客たちです。こうした欧米のチャレンジ精神(主体的に何かに挑戦し、自己変革を起こしたい、新しい何かをつかみ取りたい)の旺盛な層は、私たちの田舎の提案に興味を持ちます。バカンスでビーチでリラックスしたいという層とは一線を画した顧客層です。こうした人たちをターゲットにすれば、地方への誘客は成功すると考えているから、私たちは、それを愚直に実行しています。
 宿においてはインターネットは必要不可欠なのは当たり前ですが、我々のフィールドは田舎(山間地域などの僻地)ですので、電波が届かないこともしばしばです。そこに文句を言うような顧客は田舎滞在は厳しいかもしれません。むしろデジタルデトックスしに田舎に行きたいという顧客がコアなターゲットかもしれません。インターネットなど現代社会との接点を遮断するくらいのアドベンチャー体験に価値があるとも考えているような人たちです。山岳地域にいけば携帯がつながらないことは当たり前で、それを楽しめるメンタリティを持っているのがアウトドアの愛好家たちです。そんな人と日頃接しているため、自分たちもそのデジタル対応にどう対応したらいいか、よく迷います。私の会社はリベルタ株式会社と言って、その事業はトラベル事業だけでなくクリエイティブ事業もあるため、「ザ・デジタル」「ザ・IT」のこともやっています。WEBサイトの制作やWEB記事や動画制作、アプリの開発、システム開発などを事業として営んでいて、それはそれで数千万円の売上高になっているのです。かたやデジタルデトックスを標榜し、かたやIT事業をやっている。そんな混沌とバランスの合間にあるのが弊社リベルタ株式会社です。逆に言うと、ITを使ったクリエイティブの制作からデジタル対応、アドベンチャー体験までを一気通貫でできるのが我々ということでもあります。
 デジタル化についても課題があると感じています。デジタル、デジタルというのがキーワードで、それがイコールOTAの活用と解釈されている点です。そもそもは、旅行者の利便性を高めるためのインターネットの利活用促進ということだと思うのですが、販路開拓が、イコールOTAへの商品掲載、と解釈されている点は問題です。そもそもOTAは、安近短のプラットフォーム(マーケットプレイス)だと思います。もちろん海外には高単価のロングのツアーのプラットフォームもありますし、テーラーメイド型(個々の顧客に対応するカスタムメイド型)の入札型のプラットフォームもあります。しかし今語られているOTAへの対応とは宿や数時間のショートの体験プログラムを販売するサプライヤー向けの話のみで語られているのだと思います。つまり我々のような、高額でロングの商品を扱う旅行会社やランドオペレーターの販売手法にはOTAはマッチしないのです。商品を販売するためにはOTAを使うことも、海外のエージェントを使うことも、直接自社サイトで予約を受け付けることもあるでしょう。そのあたりを分解せずに、デジタル対応イコールOTA対応、販路開拓イコールOTA掲載となっている点が実に滑稽に見えてしまうのは仕方のないことなのでしょうか。このあたりの海外との商取引の仕方や、デジタルのリテラシー、インターネットに対応するリテラシーの向上が今日本には求められています。まずは紙の無駄遣いを減らすためにも、FAXをやめるところからスタートすべきということでしょうか(笑)。
 このように今私たちは、田舎へ顧客を連れてくるための様々な課題と闘っています。

【Ehime Kurushima-kaikyo-ohashi Bridges, from Mt. Kiro】【Gunma Carp Streamers, Akaya Lake】【Yamaguchi Farmer in Higashi-ushirobata Rice Terrace】
【Hiroshima Streetscape of Yutakamachi-Mitarai】【Niigata Wakabayashi-tei House】©経済産業省、【表示4.0 国際】ライセンス https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/