何と闘っているのか Part 1
【創業10周年企画 地域インバウンド】現在
私たちがやっている旅行業ハートランド・ジャパンの強みは、日本全国をカバーしていること、ウォーキングだけでなくサイクリングやカヤッキングなどのマルチなアウトドアアクティビティを提供していること、地域ネットワークを使ってディープな交流や文化体験を提供できることの3つだと思います。逆に言うと、そういった需要をマルチにカバーできるランドオペレーターが日本にはないということだと思います。そういった隙間にマーケットがあった点が、我々が成功している点の一つだと思います。さらに弊社リベルタ全体としては、IT部門(クリエイティブ制作、アプリ開発、システム開発、デジタル広告の運用やPRなどのプロモーション)があるので、地域開発部(行政コンサル)が突破口となって地域に入り込んで造成した商品を、作ってお終いではなく、海外向けのプロモーションから販売までの支援を一気通貫で行える点も地元からは評価されています。
日本のインバウンド市場で、欧米人を顧客とし、ウォーキングなどアクティブなツアー形態で一定程度の規模で成功している旅行会社は外資系です。日本の会社ではなく、海外の会社たちが、こぞって30年も前からこの分野に市場を創り、海外のネットワークを駆使して顧客を増やし、地域への送客に成功しているのですが、それは日本ではあまり知られていない事実です。そして、それらの会社を経営するのは外国人の人たちです。ここで我々日本人が知らなければならないことは、日本の地域のいいところを見つけるのは彼らの方が上手だ、ということです。日本の伝統に対するリスペクトや地域住民の暮らしぶりへの関心が日本人よりもあるのです。その価値観の逆輸入をして、我々日本人が彼らの価値観から学び、その視点を地域活性に役立てることができれば、それは国際的な規模で、地域の文化を伝承することにつながる。その価値の大逆転劇に底ならぬ魅力とロマンを感じ、ガソリンを燃やし続けているのが我々ハートランド・ジャパンということになります。
たとえば、中山道や熊野古道は世界市場における日本の人気トップ2のハイキングトレイルである一方、日本人はわざわざ中山道を歩きに行こうとは思いません。日本における古道歩き、街道歩きとは、シニア向けの週末の趣味でしかないのです。しかし、目を海外市場に転じて見ると、それは、クールでオーセンティック(ホンモノ感のある)で、日本の精神文化や武士の残像を体感させる魅力あるトレイルとなり、老若男女を問わず誰もが一度は「歩きたい道」となるのです。これが我々が着目すべきカルチャーギャップです。
実際にウォーキングツアーのドル箱は中山道と熊野古道です。中山道は馬籠-妻籠が定番。熊野古道はいくつもルートがありますが、もっとも歩きやすい中辺路ルートが人気です。外資系旅行会社はこぞってその2つを売っています。ともに周辺ではバスや温泉が満員になったり、宿が取れなかったりとオーバーツーリズムの問題が起き始めているほどです。ですので、今、私たちはそれに代わるオルタナティブなルートの開発に勤しんでいます。中山道で言えば、長野県の伊那の地域や木曽地域から海外で人気の飛騨高山につながる飛騨街道のルート。熊野古道で言えば伊勢神宮と熊野三山の2つの聖地を結ぶ伊勢路ルートです。これら「古道」の資源はまだ日本ではあまり着目されていませんが、こうした古道を整備して、アクティブに地域の魅力を掴み取ることに価値を感じるアクティブな旅行者の市場に訴求していくことは、田舎インバウンドのあるべき姿の一つだと私たちは考えています。ミニチュアお遍路は全国いたるところにありますし、養蚕が盛んだった地域には猫神様の石像を巡る巡礼もできます。大分県の国東半島には峯道ロングトレイルという昔僧侶たちが鬼のように人智を越えた存在になろうと修行して歩き回った道が、古道ハイキングのコースとして整備されていて、今、世界のハイカーから注目されています。古道には日本人の生きたストーリーがあるので、わざわざ歩くことの「意味」(理由)を感じ取りやすいという側面がありますので、それが強みになるのです。
また、最近では国内では、国立公園を保全だけではなく、利活用を盛んにしていこうという国内運動も起こっているので、海外の国立公園の活用を見習った方策が打ち出されていたり、東日本大震災の復興がストーリーとなったみちのく潮風トレイルも整備され、ただただ長い距離を歩く、というアメリカ型のロングトレイルの文化が徐々に浸透してきていたりするなど、「歩き旅」の市場が形成され始めています。もともと昭和初期に自然歩道が全国に整備されたのですが、アウトドアブームには波があるため、その後、ハイキング人気は下火となり、今では放置されてしまっています。しかし今、再びそれらの自然資源や歴史資源が徐々に見直されるようようなってきて、古道、ロングトレイル、国立公園を活かした地域インバウンドのあり方が活発に議論されてきています。
昨今よく話題に上がる「AT」(アドベンチャートラベル、アドベンチャーツーリズム)。それを聞くと、ついついハードなアウトドア体験(アクティブで危険な体験)を想像されるかもしれませんが、AT市場でもっとも大きなパイを形成するのはソフトアドベンチャーの市場です。軽めのウォーキングと文化体験を組み合わせたようなツアー形態です。ウォーキングは、街歩き、畦道歩き、古道歩き(巡礼道道や侍の道、輸送の道、生活道など)、ハイキング、トレッキング(縦走)などいろいろあります。文化体験はしばしば「当地の伝統に触れること」だったりします。地歌舞伎や神楽、人形浄瑠璃などの伝統芸能、和紙づくりや箸づくり、陶芸などの伝統工芸、郷土料理、山岳信仰や神仏習合、禅など日本の精神文化…それら全てが、欧米顧客にとっての日本らしい体験となり、ホンモノらしさを感じさせるものとして人気です。アドベンチャートラベラーに限らず、欧米人はそうした「日本らしさ」を求めています。その日本らしさとは、しばしば「古い日本」なのです。侍が出てくる時代劇の世界に触れることが一つの彼らの日本なのです。それらを理解して、ウォーキングやハイキング、サイクリングやカヤッキングのアウトドア体験と組み合わせるのが欧米系アクティブ層を取り込む定石となっています。それがソフトアドベンチャーです。
アドベンチャートラベルの市場では、SNS映えや爆買い、ポップカルチャーだけでなく、これまでツーリズムに役立てようとされてこなかった自然資源の活用やその受け皿づくりが求められます。それに対応できるオペレーターやサプライヤー、ガイド人材がまだ十分に育っていない点が日本の課題です。
人材面について最も大きい課題、それはガイドです。日本では通訳案内士などのガイド協会が市場のニーズとは違ったガイド教育をしているように見受けられます。これまで日本人やアジア人を相手に成長してきたインバウンド産業ですが、今は、変わってきています。その変化対応する必要があるということです。これまでは、昭和のバスガイド型のガイディングがこれまでは求められてきました。その弊害は「ガイドが1人でとにかくしゃべり続けること」にあります。「しゃべり続けることがお客様を退屈させないことなのだ、だから喋り続けなさい。なんなら歌って美声を披露することもやりなさい」それがこれまでのガイド教育でした。昭和の社員旅行や修学旅行、町内会の旅行のスタイルです。
問題はそのスキームが今の今になっても進化していない点と、さらに同じスキームで欧米人インバウンド顧客にも対応してしまっている点です。欧米人はそのようなガイディングは好みません。お客さんとの会話を楽しむ対話型だったり、興味深く意味のある話をしてくれる「ストーリーテリング」というガイド手法です。テープレコーダーのように丸暗記した内容をひたすら、息もつかせずに話し続けるスタイルは、場違いであることをガイドは知る必要があります。
また通訳案内士の資格制度やジオパークガイドガイドの認定制度、地域ガイドのXX制度なども、受験型です。つまりテキストを渡されて、それを丸暗記する。試験でいい答えができれば認定される。そしてその勉強の成果を本番のガイディングでも披露してしまう点が問題なのです。今のガイドの資格制度は実践(実戦)を想定していません。だから試験で丸暗記したことをそのまま喋り続けることがよしとされています。年号や固有名詞などを間違わずに話すこと。テキストに書かれた難しいストーリーを暗記して相手の理解度も興味関心もお構いなしにそのまましゃべること。それがよしとされています。さらにそうして教育されてきたガイドはプライドも高く、フレキシビリティもありません。また高圧的です。専門家然としていて、私を権威として認めなさいと言わんばかりです。私はそれを「先生型」と呼んでいます。この先生型の丸暗記ガイドがもっとも解決すべき日本のガイドの課題です。今、海外のお客さまから求められているのは、丸暗記型ではなく「会話型」。先生型ではなく「友だち型」です。このあたりのボタンを掛け違ってしまっていると、いつまで経っても日本のガイド制度は良くなりませんし、いいガイドも育ちません。もっと実践的で「お客さま中心」のガイド制度が今求められています。実際に、海外のエージェントから聞くのは、そういう日本のシニアガイドはお願いだから使わないでくれ、という残念な声です。これは真剣な依頼事項として真摯に懇願されます。結局ツアーの出来ば映えを左右するのはガイドが7割です。そのガイドの部分が満たされなければ、そのツアーは失敗になるのです。だからこそ、今、そうした国際感覚や顧客ニーズに対応するセンスを持ったガイドの育成が望まれており、そんな実践的なガイドの育成に私たちも注力しています。私たちは独自のガイドトレーニングプログラムを用意することで、今その課題解決にも乗り出しています。