無名地域の世界での戦い方 Vol.2

そもそも無名地域ってどこ? で、どうなの?

 

ーー無名地域の定義とは?

前回は、IT業界からレガシー業界とも言われるトラベル業界に身を投じてみた感想を書かせていただきました。

今回は、そもそもこのブログのタイトルになっている「無名地域」の定義と、その無名地域が置かれている「世界における立場」について説明したいと思います。

まずその私たちが置かれているプレゼンスを知るために、世界の人たちは、一部の日本マニアを除いて、東京・富士山・京都・広島などのメジャーなデスティネーションしか知らないという前提を押さえておきましょう。いわゆるゴールデンルート上に乗っかっているメジャーな地域です。これらのデスティネーションは日本旅行を考え始めた潜在顧客が、旅行パンフレットやオンラインメディア、旅行代理店などを通じて、最も先にたどり着く一般的な目的地情報(一次情報)で、日本に来る観光客の大半が実際にそのルートの周遊のみに滞在時間を費やしているのです。そして、多くの人は、初めての日本訪問をゴーデンルートの周遊だけに費やし、それで十分に満足(つまり日本に来られたということに満足)してしまっているという事実を認識しておく必要があると思います。

また、ゴールデンルートから外れて「今回は飛騨高山に行った」「高野山に行った」「直島に行った」というようなことが、そんな彼らにとってはちょっとした「冒険」で、人に自慢したくなるくらいユニークな体験であるということも知っておくといいでしょう。

つまり、それほどまでに、外国人観光客の日本旅行におけるリテラシーは高くないのです!

では、「無名地域」の定義とは?

……それは、ゴールルート以外のすべての地域が無名地域ということになるでしょう。

私が海外に営業に行った際に、熊本、阿蘇という地域の名前を出しますが、相手にとっては、ちんぷんかんぷん。九州(Kyushu island)という言葉すらまったく知られていない(世界的に有名なイタリアのシシリー島とは訳が違う)のです。

そんな人たちに萩だ、津和野だ、出雲だ、石見だ、と言ったところで、「そんなところ知らない、そこに何かあるの?」という反応になるのは必然。商売の話はなかなか進みません。

まず、これが世界において日本のデスティネーションが置かれている立場だということを認識しましょう。

また、日本は、そもそもタイ、ベトナム、中国などと比較検討されている一つのデスティネーションに過ぎない、それがそもそも日本の置かれている世界マーケットでの位置付けだということも無視できない事実と言えるでしょう。

実際に、海外のエキスポや営業先の会社のオフィスにある旅行パンフレットの表紙はワンパターンです。ずばり、その表紙を飾っているは、たいてい富士山か宮島(厳島神社の鳥居)です。それが旅行先に日本を検討し始めた人たちにとっての、また、初めて日本に来る人たちにとっての、あこがれの国「日本」なのです。日本のユニークなデスティネーションをアピールして競合他社との競争に打ち勝とうという旅行会社の「工夫」が必要な段階には至っていない(あえてリスクは冒す必要はない)。そして、それで彼らの商売が十分に成り立っている(定番アイテムだけで売れるんだから、まずはそれだけで十分)。それがまだ発展途上にある世界の旅行業界における商品「日本」のポジションなのです。

日本が置かれている立場自体がそんなものですから、ゴールデンルート以外の無名地域の認知度は、ほぼ全く「ない」というのが、悲しいながらの現実です。いくら我々が主軸として扱っている地方のパッケージをセールスしても、暖簾に腕押し。ズバッと刺さるというケースは稀です(だからこそ我々が狙うマーケットは、特定領域に設定していて、そこには無茶苦茶刺さるんですが、それは後日触れます)。ミーティングのその場では「写真きれい!」「それどこ?」「行ってみたいわ〜」などと褒めそやされることも多いのですが、「それ売りたいから次のステップに進めましょう」という旅行会社の声や、「じゃ、いついつにそのツアーに参加するよ」というコンシューマの声はまずありません。

消費者はそもそも1年、2年先の海外旅行の検討をしており、かつ商品理解に時間がかかり、高額商品であるがゆえに購入の検討期間自体も長い、旅行会社や一般消費者をその気にさせるには、とても時間がかかるということなのです。

 

Keijiro Sawano

 

ーー無名地域はあきらめろってこと?

ではいつまでそんな勝ち目のない不毛な営業活動、負け戦を我々は続けるのでしょうか?

……それは市場が暖まるまでです。

え、じゃ、いつ暖まるのでしょうか?

……それは分かりません。

では、市場が暖まるとはどういう状況でしょうか?

それは実際に海外からの観光客が実施に当地に足を運び、周囲の人やオンラインを通じて口コミをし、ある程度、広まってきた状態。イノベーター理論でいうところのアーリーアダプター(市場の16%)くらいまで、市場に浸透し始めた状態というところでしょうか。

今はどの状態か? 無名地域が置かれている立ち位置は、イノベーター、もしくは地域によってはそのイノベーターの位置にすらも到達していないと言えるでしょう。それくらい海外の一般的なツーリストには、日本のこの多様な地域は旅のデスティネーションとして認知されていないのです。

では、どうしたらいいのでしょう?

海外の顧客がトラベル商品を購入したり、デスティネーションを決定したりする経路は、主にオンライン経由かトラベルエージェント経由、あるいはガイドブック経由です。

そう考えると仕掛けるべきトリガーは、いくつかありそうです。

一つ目は、我々がオンラインで多くの情報を提供すること。それにより、顧客の中でそのデスティネーションに対する興味が湧き、WEBで検索し、その当地へのdesireが湧いた状態を作り出す。この場合どんなワードでひっかけるのか、そこは研究のしどころ、SEOを始めとするデジタルマーケティングのスキルを要します。

二つ目は、我々がトラベルエージェントなどの海外チャネルに対する営業活動、プロモーション活動をすること。それにより海外チャネルがそのデスティネーションを売ることにやる気になり、顧客への情報提供を積極的に行うようになり、結果的に顧客の中でそのデスティネーションに対するdesireが湧いた状態を作り出すことです。実際に海外の会社とのやりとりは、彼らのカタログに載せるためのリードタイムが。かつ、現地で商談するにあたっては旅費等のコストもかかります。時間もコストもかかるのでとても大変な作業になります。

三つ目は、メディアへの働きかけです。ガイドブックの編集者やトラベルのジャーナリストに広報活動をすることで、彼らが持っているメディア(露出チャネル=ガイドブックや雑誌、新聞、オンラインメディア等)に、その当地が掲載されること。メディアへの働きかけにより、パブリシティを獲得し、それが日本の新たなデスティネーションを探す読者たちの目に止まり、その当地へのdesireが湧いた状態を作り出すということです。

ただ、メディア側も商売でやっているので、それなりに著名な媒体の場合は、1記事あたり100万円以上、特集になると300-500万円といったコストがかかります。またジャーナリストやカメラマンを招聘するについては、その分の旅費を全て招待者側が持たなければならなかったりします。

逆にその予算があるならば、それなりのパブリシティは獲得ができますが、なかなか我々のようなスタートアップには手が出せない領域です。予算をかけずにパブリシティを獲得する方法もありますが、そこはある程度のノウハウ(ここは知恵の絞りどころ!)や、メディア関係者と信頼のネットワークを要するという点ではそれなりの難易度と言えるでしょう。

いずれにせよ、顧客にdesireを湧かせるための活動を、それぞれのタッチポイントを通じて地道に作り出すことが必要です。

なお、このような活動を通じて、アーリーアダプターを作り出し、アーリーマジョリティにまで日本の地域が市場で浸透していくには、おそらく数年、私は最低でも5年はかかると考えています。イノベーターへの認知・浸透で3—5年、アーリーマジョリティ層の浸透で5-10年というスパンで考えるのが妥当だと思います。

またこのような認知・啓蒙活動は、我々のような小さな会社が1社でやっていても埒があきません。点ではなく面を作り出すために、点と点をつないで、まずは線を作って、最終的に面にしていくイメージです。ヒト、モノ、カネを有機的につなぎ、官民が一体となり、また、我々のような旅行会社が地域の事業者と一体になって、世界に向けた認知活動を行うことが必要なのだと思います。このあたりの具体的な方策についてはまだ自分の中でも確信がありません。

ただ、実際に地域の努力により、ゴールデンルート以外でも、飛騨高山、白川郷、金沢、そして、ニセコ、白馬、妙高、沖縄、直島などのデスティネーションは、海外でもチラホラ耳にすることがあります。実態の詳細は自分も把握していませんが、地道な認知活動が実った成果だと思っています。

ですので、地方インバウンドだからと言って、決してあきらめる必要はなく、地道な活動を積み重ねる段階に今はあるのだ、ということを理解しましょう。

限られた日数で、限られた予算。彼らの中のデスティネーションの優先順位を揺さぶっていかなければならない時期がまさに今なのです。彼らは自分が心から欲しいものを知らないだけなのですから。

 

–Vol.3に続く

 

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文・リベルタ株式会社 代表取締役

ふるさとを世界と分かち合う

ハートランド・ジャパン 澤野 啓次郎

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