大手航空会社の現役パイロットが通訳ガイドになったワケ

パイロットと通訳ガイドの二刀流

~大切にしたい「和の心」~

パイロットの私が、通訳ガイドを目指したワケ

Welcome aboard, ladies and gentlemen. This is your captain Kimura speaking.

航空会社の機長として乗務しながら、ハートランド・ジャパンでは通訳ガイドとして海外からのお客様に日本の魅力をご紹介している木村と申します。

25年以上に渡り国際線のパイロットとして60以上の国と地域を飛び回りながら、次の乗務のために必要な休養時間を確保した上で、国内外の様々な観光地や隠れた穴場などを巡ってきました。

世界各地で観光ツアーに参加したり、数人でワゴンバスをチャーターして名所を巡ったり、路線バスを乗り継いで田舎町まで足を伸ばしたり、寝台列車の固いベッドで寝ながら遠出したり、市街地や川沿いをジョギングしたり、時にはホテルの部屋からの景観とルームサービスの食事とホテル内のジムでの運動だけで満足したり、色々な形でたくさんの国のあまり知られていない姿に触れる中で、あらためて観光というテーマについて考えるようになりました。

豊かな自然、美しい街並み、印象的な建築物、寛容な人柄、安くて美味しい食事、見応えのある美術館や博物館、便利な交通機関、治安の維持された環境、どれを取っても素晴らしいと思える国がある一方で、駅や観光施設で階を移動するのに階段しかなかったり、横断歩道がないために命懸けで道路を渡らざるを得なかったり、運転マナーが悪いために常に渋滞が起こっていたり、タクシーに乗ると当たり前のように遠回りをされたり、レストランの会計が毎回のように上乗せされていたり、残念ながら反面教師としか思えない国もありました。

自分が最も心を痛めたのは、かつて微笑みに満ち溢れていたある国の変化でした。

初めてその国を訪れた当時は衣食住の面でも物質的な面でも決して恵まれているとは言えない状況でしたが、空港でも街でも田舎でも誰もが屈託のない笑顔で話し掛けてくれて、困った時には見返りも求めず助けてくれました。

ところが人気の観光地として発展していくに従って不機嫌な顔をした人が増えていき、経済的な急成長を遂げた今では笑顔の人を見掛けることも滅多にありません。

あの笑顔はどこに行ってしまったのだろう?

日本でもこの数年インバウンドの急増によって観光地に莫大な経済効果がもたらされていますが、全ての価値を数字に換算しようとすることで「和の心」が失われてしまうのではないかと危機感を抱きました。それがきっかけで、全国通訳案内士とインバウンド実務主任者の資格取得を考え、資格の取得後はパイロットと通訳ガイドの二刀流で活動するようになりました。

そんな中で、人と人との繋がりを大切にした新しい観光の実現を目指すハートランド・ジャパンの澤野さんから声を掛けていただけたのは、自分にとって本当に幸運なことでした。

利益追及の消費観光ではなく、「人と人とをつなぐ」「リアルな日本を伝える」ガイドとして、先に述べた観光地化による課題と向き合えるのではないかと強く感じました。

パイロットとしての経験が活かせる通訳ガイドのシゴト

4月に通訳ガイドとしてフィンランドから家族旅行のお客様をお迎えした時には、原宿へ移動する電車の中で今回の家族旅行の目的について詳しくお伺いした上で、明治神宮で一緒に参拝して竹下通りのユニークなお店を紹介しながら太田記念美術館までご案内するうちに、ご家族4人それぞれの興味、知識、価値観、体力面の不安などが把握出来たので、昼食のタイミングで午後の予定を大幅に見直しました。

一人一人と相談しながら、歩く予定だったところで路線バスを利用して体力を温存し、森美術館では時間を掛けてじっくり楽しんでいただきました。

六本木ヒルズの展望デッキから東京タワーの写真が綺麗に撮れたという理由で東京タワーには行かないことになったので残り時間でご案内が可能な候補の中から選んでいただいた結果、日比谷公園に面したテラスから皇居周辺の建物についてご説明した後、有楽町のガード下を遠目に見ながら徒歩で銀座に移動して大型書店やデパ地下などをご案内しました。

急遽ご案内することになった銀座の大型書店とデパ地下は特に気に入っていただけたようで、翌日も自分たちだけで行って来たと連絡をいただきました。

実際にガイドとして活動して感じるのは、長年のパイロット業務で培った経験が大きく活きているということです。

フライトの準備段階ではイメージトレーニングが大切で、色々な状況を細かく想定して、それぞれ具体的に対処するイメージを繰り返すことで、実際のフライトでも落ち着いて臨機応変に対応出来るようになります。

ガイドの準備段階でも、事前にどれだけ具体的にイメージしておくかが大切で、計画通りにならなかった場合の選択肢の数を増やしておくことで、実際の予定変更やトラブルに対して冷静に判断して迅速に対応することが出来ます。

しっかり準備した上で、パイロットに常に求められるのは優先順位付けという考え方で、限られた状況で情報を取捨選択しながら優先順位を決めて一つ一つ対処して行くことは、ガイドとして多数のお客様をご案内する際や、思わぬ緊急事態に遭遇した時などに大変重要です。

自分がパイロットとして守って来た、「お客様に誠実に」「迷ったら安全を選べ」というポリシーも、ガイドとして活動する上で必要不可欠なものと感じています。

これからも、安全で楽しい観光を通じて一人でも多くのお客様に貴重な経験をしていただけるように、フライト同様に地道な準備を続けていきます。

木村浩義

【Ehime Kurushima-kaikyo-ohashi Bridges, from Mt. Kiro】【Gunma Carp Streamers, Akaya Lake】【Yamaguchi Farmer in Higashi-ushirobata Rice Terrace】
【Hiroshima Streetscape of Yutakamachi-Mitarai】【Niigata Wakabayashi-tei House】©経済産業省、【表示4.0 国際】ライセンス https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/